『異端者の家』
『アンジェントルメン』では主人公たちに指示を出す上官の役をケイリー・エルウィズが演じている。かつては英国における美青年の代表格の一人ともいえる俳優だったが、今もなおその美しさや気品は若い頃と変わらぬものがあった。
そして、彼以上に「英国の美青年」として名を馳せたヒュー・グラントが主演しているのが、この映画だ。ただ、ケイリー・エルウィズが美青年のイメージを残したまま年を重ねたのに対し、ヒュー・グラントはそうではなかった。驚いたのは二〇二三年のガイ・リッチー監督の『オペレーション・フォーチュン』だ。姑息な悪党を演じているのだが、すっかり貫禄がついていて、任侠映画で悪役を多く演じていた安部徹のような太々しい凄みを放っていたのである。
本作でもまた、圧倒的な貫禄をもって強烈な悪役ぶりを見せつける。
モルモン教の二人の若きシスターが、教会の指示でヒュー・グラントの演じる主人公の家を訪ねるところから、物語は始まる。だが、これは主人公の罠。彼女たちは宗教論争を挑まれた挙句に監禁され、やがて脱出不可能に思える地下室に閉じ込められてしまう――。
その信仰心をあざ笑うかのように次々と試練を与え、なんとかして脱出しようとする二人の先を読んでさらなる絶望を与える。そんなサイコパスな役柄が、憎々しさと知的さを同居させる今のヒュー・グラントにピッタリで、この男には絶対に敵わない――という恐怖感に説得力を与えていた。
が、それで終わらないのが本作の素晴らしいところ。二人のシスターは最後まで決して諦めることなく、目いっぱいの知恵と勇気を振り絞ってこの困難に立ち向かっていくのだ。特にシスター・パクストンを演じたクロエ・イーストが抜群。当初はもう一人のシスター・バーンズ(ソフィー・サッチャー)に頼り切りだったのが、徐々にファイターとして覚醒していく様を巧みに演じきっていて、最終的にはヒュー・グラントと真っ向から対峙しても当たり負けしない迫力を提示していた。
『異端者の家』
監督・脚本:スコット・ベック、ブライアン・ウッズ/出演:ヒュー・グラント、ソフィー・サッチャー、クロエ・イースト/2024年/アメリカ・カナダ/111分/配給:ハピネットファントム・スタジオ/©2024 BLUEBERRY PIE LLC. All Rights Reserved./4月25日(金)より全国ロードショー


