「何を言ってもバカにされる」「ミスをすれば笑われる」
プロジェクトの成功には、建設的で冷静なコミュニケーションが欠かせません。プロジェクトの進行中に感情的なやり取りが発生すると、チーム内の信頼関係が損なわれ、士気やパフォーマンスに深刻な影響を与えることがあります。特に、上意下達の組織文化や権威主義的な組織風土の中では、感情的なやり取りが発生しやすく、これが長引くとチーム全体が疲弊し、最悪の場合、キーパーソンの離脱等によってプロジェクトが破綻することさえあります。
上意下達の組織文化では、指示や命令が一方的に下りてくる傾向があります。このような環境では、現場の状況が十分に考慮されず、現実的ではない目標やスケジュールが設定されることが常態化します。
その結果、メンバーは不満やストレスを抱えやすくなり、それが感情的なやり取りの引き金となる場合があります。たとえば、無理なスケジュールを指示されたメンバーが「この計画では進められない」と反発し、それに対して上司が感情的に対応するといった場面です。このような状況では、課題の対策が後回しにされ、チーム内の対立が深まります。
また、権威主義的な組織風土では、「役職が上の人の意見が絶対」とされることが多く、メンバーが自分の意見を自由に述べる機会が制限されがちです。このような環境では、上司やリーダーからの叱責や低評価を避けるためにメンバーが発見した課題や感じている不安が表に出なくなるため、問題が蓄積してトラブルを招く可能性があります。たとえば、タスクが遅延していることを報告せずに計画が破綻したり、認識していたバグを報告しなかったことで深刻なトラブルが発生したりするといったことは、そうした組織では頻繁に見かける事象です。
「感情的なやり取り」と聞くと、激昂や叱責をイメージしがちですが、そうした激しい感情表現だけでなく、皮肉や冷笑にも注意が必要です。
皮肉や冷笑は個人のコミュニケーションの癖になっていることがあり、そうした場合は往々にして「個性」として扱われて問題視されないことがあります。しかし、皮肉や冷笑は個人やチーム全体に深刻な影響を与えることがあるため、早期の対処が必要です。
まず、皮肉や冷笑が持つ直接的な悪影響として、「個人への精神的ダメージ」が挙げられます。たとえば、タスクの遅れやミスに対して皮肉や冷笑を交えたコメントが行われると、指摘を受けたメンバーは強いストレスを感じるだけでなく、自分の能力や価値に疑問を抱くようになります。このような状況が続くと、メンバーは自信を失い、積極的に意見を述べたり行動を起こしたりすることを控えるようになります。
結果として、プロジェクト全体の生産性や創造性が低下します。また、皮肉や冷笑がチーム内で常態化すると、メンバーは「何を言ってもバカにされる」「ミスをすれば笑われる」と感じ、意見やリスクを共有することを避けるようになります。その結果、課題が見過ごされ、プロジェクトの進行に重大な支障をきたす可能性が高まります。
さらに、皮肉や冷笑は「チーム全体の分裂」を引き起こすこともあります。特に、皮肉を発した人物が上司やリーダーである場合、その言動が「攻撃的な態度が許容される」というメッセージとして受け取られ、チーム内で同様の行動が広がる可能性があります。このような環境では、協力や信頼が失われ、チーム全体の士気が低下します。皮肉や冷笑が蔓延した環境では保身のために誰もリスクを取らなくなるため、不確実性を扱うプロジェクトの成功率は非常に低くなるのです。
今回一部内容を抜粋した書籍『人が壊れるマネジメント プロジェクトを始める前に知っておきたいアンチパターン 50』では、紹介したような「ヤバすぎるマネジメント」だけでなく「じゃあ、どうすればいいの?」という疑問に答える「正しいマネジメントの方法」についても解説しています。
