部下がミスしたとき「絶対にやってはいけないこと」

 プロジェクトなどの新しい取り組みを実施する際に最も基本的な禁じ手は「ミスを責めること」です。ミスは誰でも起こすため、それを責められる環境では誰も進んで仕事をやろうとはしなくなります。

 仮に、ある人のミスする確率が1%だとすると、10個のタスクを実行する際はミスが露見する可能性は低いですが、100個のタスクを実行すればその可能性は上がります。つまり、多くの仕事を引き受ければ引き受けるほど、ミスが露見する可能性が上がるため、誰も積極的な姿勢を見せなくなるのです。特に減点方式で評価される組織ではこの傾向が強くなります。

ミスを責めれば責めるほど、消極的な組織に

 そもそも、ミスを責めてもそれが改善されることは稀です。ミスを責められた際に改善できる人は、最初から「正しい進め方」を知っている人であり、正しい進め方を知らない人は改善の方法がわからないため、単に萎縮してモチベーションが低下して仕事に積極的に取り組まなくなったり、自分自身のミスを認めないように隠したり誤魔化したりするほうに努力が向かいます。

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 また、ミスをしても謝ればいいと開き直ったり、いわゆる「ズル」をして成果を出そうとしたり、評価する立場の人(意思決定者やマネージャー)に個人的に取り入ろうとしたり、場合によっては他人の成果を横取りしてアピールしようとしたりすることもあります。

 こうした行為の結果として、同じミスでも人によって強く責められる場合とそうでない場合とで差が出ると、不公平感が出て積極的に仕事に取り組む人は減り、不正や隠蔽などに向かう人が増えるようになるでしょう。これは言うまでもなく組織の競争力を大きく下げる結果をもたらします。

 ミスを責めることのより深刻な問題点は、それによって本質的な問題が放置されてしまうことです。ミスが発生する要因として本人の注意力の欠如以外にも、決められた仕事のプロセスの不適切さやプロジェクト計画の非現実性、過重労働、実行体制や労働環境の不備、教育や育成の不足などのより本質的な問題が存在する可能性があります。

 露見したミスを責めて個人の責任に帰すことで、これらの問題が放置されることになると、ミスが発生しやすい要因がそのまま残っているため、同様のミスがその後も継続的に発生するようになるのです。特に日本では、叱責された人が置かれた状況や環境面の問題点を指摘すると「言い訳するな」と言われやすいため、本来は組織の意思決定者やマネージャーが対応すべき物事の問題点が改善されにくい傾向があります。

 ミスが発覚した場合に必要なのは、作業の担当者を責めることではなく、作業のプロセスやプロジェクト計画の問題、環境面や育成の不備について点検が必要な兆候だと捉えて、マネージャーの責任として冷静に事実確認を行うことです。