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南アW杯のときはもっとひどかった

大久保 たとえば、2010年の南アW杯のときはもっとひどかった。チームとして何もなかったんです。攻めたいのか、守りたいのか、繋ぎたいのか、チームがどの方向を目指すのか誰もイメージできていない状態でした。一方で本当に追い詰められていたからこそ、みんな開き直っていた。

©JMPA

増島 南アW杯の本戦前のテストマッチではイングランド代表、コートジボワール代表とおこなうんですが、相当格上でした。当然勝てない。その後、現地に入り、本当に最後のテストマッチ、もうほとんど練習試合なのですが、そこでジンバブエと30分を3本おこなった。当時の世界ランクで110位代、相当格下でした。本来ならば圧勝していいイメージをつくりたいのに、結果は0-0の引き分けです。我々メディアは、なんだあの試合は! と批判した記事を連発します。

 試合直後には嘉人選手に取材しました。そこで「今日の試合で自信が湧きました」と答えるんです。もう何を言っているのだと思いましたよ。非常に違和感があった。

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大久保 覚えていますね。あの試合の直前に選手でミーティングがあったんです。ディフェンスの選手は守りたい、僕たちは攻めたい、もう後ろと前のケンカですよ。点が取れていないから守るしかない。守備は全員で、攻めは僕と圭佑(本田圭佑選手)、松井さん(松井大輔選手)の3人で前に出ることを決めた。それを岡田監督に伝えました。

 もうこれしかない。こうじゃないと勝てないと思いました。W杯って極端にいうと勝てればいい。いい試合をしなくてもいいんです。とにかく勝ち点をもぎ取りたい。そこで初めてチームがひとつになった。ジンバブエ戦では決められなかったけど、本戦では絶対うまくいく自信があったんです。

増島 我々メディアも日本中もその言葉の意味を本戦の試合結果として4日後に知るわけです。このとき非常に印象的だったのは、たとえチームに密着するメディアであっても、そこで何が起こっているのか、本当の意味でチームがどういう状況なのかはわからない。伝えている情報は氷山の一角でしかないということなんです。

窮地に追い込まれてる代表が好き

大久保 現在の日本代表も同様に追い詰められている。だからこそ何か考えているはずです。

増島 確かに強いチーム、ヒロイックな代表は非常に魅力的です。ですが私は誤解を恐れずにいえば混乱している、窮地に追い込まれている代表が非常に好きなんです。そこから立ち直ることを、たとえわずかな希望的観測だとしても、期待してしまうからでしょう。

大久保 すごくわかります。実際のプレイヤーもワクワクしてると思いますよ。W杯は4年に1度のサッカーの試験のようなものです。その解答はあまりに困難で、長い歴史のなかで8つの代表しか優勝していない。それはどのチームに属していても同じで、形は違うけど、覚悟をもっている。

増島 多くの人は熱い声援とともに自分自身を選手やチームに投影している。だからこそ厳しい声も多くなります。それは圧倒的な強者に立ち向かっていく勇気や覚悟が自分自身の日常ではなかなか持ち得ないからでしょう。だからこそ困難を乗り越えようとする代表に期待しているのだと思います。今、多くの日本人は代表に対して諦めのようなネガティブな気持ちが強い。しかし私を含めて、メディアも国民も、すでに夢中になっているんですね。だからこそ本戦の一勝は非常に重要です。批判的な声が一斉に裏返るから(笑)。

大久保 その通りだと思います。おそらく99%の不安しかないと思う。だけど1%の自信にかけてその不安を克服してほしいと思います。

構成/渡邉哲平

©文藝春秋

日本代表を、生きる。 「6月の軌跡」の20年後を追って

増島 みどり(著)

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