刑務所帰りの竹下さんが放った“卑猥な言葉”

 偶然かなと思ったが、彼女は意図的に触っていたのだった。そして卑猥な言葉が続いた。「……い、いれる」とか言った。

 わたしはお盆に載せたみそ汁に集中していたので、その言葉が聞きとれなかった。とっさに、「なんて言った?」と施設長の吉永さんに尋ねると、彼女は顔を赤らめてしまった。そして、「女のわたしにはとても言えません」と言った。

 さらに、施設長は、「川島さん、彼女に気にいられたみたいですよ」と言った。

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「女性にはあんなに話しかけないもの。それにあんなことを言うのは川島さんに対してだけだもの」と言った。

 あのとき竹下さんの言葉よりも、施設長の一瞬赤らんだ顔にわたしは惹かれてしまった。竹下さんは体を揺らしながら笑っていた。前歯の無くなった口で笑われると気がひけてしまう。

 が、10年以上刑務所暮らしをし、接する男は刑務官だけだったのではと思うとかわいそうなものがあった。監視し、命令してくる男たちである。彼女の気持ちを受けとめてくれる男たちはどこにもいなかったのだ。