車椅子の上で震え、悲鳴を上げるように
彼女が、突然「うあああっ」と声をあげ、けいれんを起こすようになった。
最初、いつもの笑い声かと思ったが、見ると車椅子のうえで伸ばした足が震えていた。何ごとかと思った瞬間、悲鳴もけいれんも治まっていた。てんかんの発作に似ており、そのけいれんは断末魔の苦しみのようで恐かった。人が苦しみ悶えながら死ぬのを見ることは恐いことだと思う。
施設長に報告した。
「突然だし、びっくりするよ」
「笑っているんじゃなくて」
「違う、けいれんしている」
「そんなときは肩を押さえてあげて。力強く押さえて落ち着かせてあげて」
そのときまで施設長も他のスタッフも、そのけいれんを見ていなかった。ファイルにも記録はなかった。偶然だったと思われるが、わたしのときだけその発作が出るようで2、3回見ていた。
夕食のあとで竹下さんの車椅子を押していたとき、階段下のうす暗がりでその発作が出た。
「うあああっー、うああっ」
竹下さんは天井を向き、車椅子のうえで足を伸ばし下半身をけいれんさせた。いままでよりも声が大きく、けいれんしている時間も長かった。ホールのほうに「どうしたッ」と元社長の森山栄二さんの声。
「見て、この発作よ」
ちょうど2階から階段を下りてきた施設長の吉永さんに言った。
「竹下さんッ、しっかりしてッ」
施設長が叫んだ。
竹下さんの耳には聞こえていなかった。
仰向けで、「うあああっー」の声が続き、下半身のけいれんが続いていた。いよいよと思った。
「肩を押さえてッ」
施設長の強い言葉に、わたしは竹下さんの肩を押さえた。竹下さんのけいれんが手に伝わってきた。だめだッ、と思ったときけいれんは治まった。みんながいるホールのほうが静まり返っていた。
けいれんの治まった竹下さんは体から力が抜け疲れたような顔をしていた。
「どうしたッ」
また森山栄二さんの声がホールのほうから聞こえた。
「なんでもないわよ。だいじょうぶよ」
施設長の吉永さんが答えた。翌日、竹下ミヨ子さんは入院のために退居した。