年をとるにつれて上がってきた「お客の解像度」
――先ほどこだわりと売上の間のジレンマについて語る中で、「年齢を重ねるまではけっこう辛かった」とおっしゃっていました。林田さんは、年齢を経て、自分なりの答えが見つかったのでしょうか?
林田 そうですね。若い頃の自分は、Lサイズの服を作る意味を理解しきれていなかったんですよ。「調整された体で服を着るのが一番オシャレなんだから、大きいサイズ不要!」とどこかで考えてしまっていました。でも自分が年齢を重ねて、理想の体型を維持できなくなってくると、「LどころかXLも必要だな」というのが実感としてわかりました。
あとは子どもが生まれて、教育費だなんだと必要になると、「生活のこの部分にお金をかけていられない」といった選択もシビアになってきます。服以外に大切なものができたことで、お客様に対する解像度も上がりました。
ただ、私はいち服好きとして、ちょっとしたファッションの工夫で日々を気持ちよく楽しく過ごせることも知っています。なので、「もちろん最低限の服でも生きていけるけど、気分を少しでも上げるために、この服を役立ててくれたらいいな」という思いで服作りをするようになりました。
「服ってなんだろう?」
――なるほど。ファッション観がリアルな生活に根ざしたものに再定義されたんですね。
林田 そうですね。ただ、「再定義」という意味では、20代の頃にも印象的な出来事がありました。当時の私は、10万円のコートを買うために食費を削るような生活を送っていて、「オシャレじゃなきゃダメだ!」くらい凝り固まった考えを持っていました。
そんなとき、たまたまドキュメンタリー番組で、ブラジルの孤児たちがボロボロのシャツとズボンを着ているのを見て、「服ってなんだろう? ファッションとは?」と思いました。突き詰めて考えると、服はあくまで生活用品だということに気づいたんです。また、彼らの着ている服がボロボロだけど大切にされていることも映像から伝わってきて、「大事にされる服ってすごいな」とも感じました。 ……このエピソードは、担当編集のお二人には何度も話しているから、話すのがちょっと恥ずかしいんですけどね(笑)。『アパレルドッグ』を描いていると、アパレル業界の渦中にいたときは考えもしなかったことをいろいろ引き出されます。
