「とにかく天候には左右されます。『半年後は絶対に寒くなっているだろう』と予想して服を作ったのに全く寒くならないというのが一昨年、去年と続けて起きました。となると服が全く売れない……」
2024年7月から有名漫画誌「モーニング」で『アパレルドッグ』の週刊連載を開始した林田もずるさん(54)。漫画家になる前は、約30年間アパレル業界で働いていたという作者は、その経験を作品にどう活かしているのか? 酸いも甘いも噛み分けてきたベテランだからこそ知っている「アパレル業界の苦労」とは? インタビュー後半をお届けする。(全2回の2回目/最初から読む)
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華やかに見えるアパレル業界だが…
――林田さんはアパレル業界にずっと勤めていたそうですが、『アパレルドッグ』の主人公・田中ソラトのようなマーチャンダイザー(商品の企画・開発から販売戦略までを手がける役割)だったんですか?
林田 ファッションの専門学校を卒業後、わりと大手企業のブランドにデザイナーとして入社して、徐々にチーフデザイナーなどを経験し、最終的にはディレクション業務をしていました。
――服作りをテーマにした漫画と聞くと、デザイナーのこだわりが詰まった小さなブランドを想像する人が多そうですが、『アパレルドッグ』は、大手ブランドを舞台に数字まわりの話がたくさん出てくるのが新鮮でした。
林田 チャラチャラした華やかな業界と思われがちですが、企業に所属しているデザイナーは完全に裏方です。昔と比べて国内アパレル市場は大幅に縮小し、私自身、アパレル業界で働くなかで、「ブランドはあっという間になくなってしまう」と何度も痛感してきました。業界を盛り上げるつもりで、『アパレルドッグ』を描いていますが、世知辛い話も多く、読者をがっかりさせてしまわないか心配です……(苦笑)。
「マーチャンダイジング」のお仕事とは?
――あらためて、マーチャンダイザーという役割について教えてください。
林田 企業によって異なる部分はありますが、主人公のソラトが働く「ミシロ」では、数値とスケジュールの管理をメインとしています。自社と他社の売上データを検証し、販売計画を立てたうえでデザインなどの打ち合わせを行い、サンプル作成・検証・修正を経て、発注。出来上がった商品を販売し、また検証……という流れを繰り返します。
――作中で「先の読めない発注はほぼ博打です」というセリフがありましたが、「次はこのアイテムが来る!」というのは何を根拠に判断するのでしょう? やはりパリコレとか……?
林田 パリコレより先に、「プルミエール・ヴィジョン」や「ピッティ・フィラーティ」といった素材の展示会があるんですよ。デザイナーはそういった見本市やセミナー、ファッションショーをチェックし、最先端の情報を掴みます。一方で、マーチャンダイザーは、自社の過去の売上や、他社が今何を売っているのかといったデータを集めます。簡単に言うとデザイナーは“未来”を見て、マーチャンダイザーは“過去”と“現在”を見渡して、双方の知見を重ね合わせ、ひとつの商品を作っています。
――それだけデータを積み重ねても、結果に驚くことはありますか?
林田 いや、驚きっぱなしですね! とにかく天候には左右されます。「半年後は絶対に寒くなっているだろう」と予想して服を作ったのに全く寒くならないというのが一昨年、去年と続けて起きました。となると服が全く売れない……。
――天候がすごく重要で、ある意味で農家のような……。
林田 本当にそうなんです。「来週こそ寒くなってください!」と神頼みをしたくなる(笑)。