迷惑をかけてもいいけれど…、面白くなきゃダメ

 老いると体力も衰えるし、認知能力だってだんだん下がってくる。それでも、今西さんは登山の時のように、その弱みを強みに変えていました。それは実は人類がずっとやってきた戦略でもある。

 今や「強い者が偉い」という世の中になりましたが、本来は弱みを利用して、支え合って生きていくのが人類の進化史における生存戦略です。弱いからこそ別の提案をしたり、仲裁したりすることもできる。今西さんはみんなの後ろに立って背中を押して、力を発揮させる知恵者でした。

 必ずしも「人が良い老人」でなくてもいい。ただし愛嬌が大事。周りに迷惑をかけてもいいけれど、面白くなきゃダメ。上手な迷惑のかけ方も今西さんが教えてくれました。

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 僕もだんだんと体力がなくなり、老境に入りつつあります。これまで、先頭に立って活動をしてきましたが、今後はもっと弱みを強みに変える戦略をうまく利用してみたい。そんなことを考えながら、新著『老いの思考法』では、ゴリラやチンパンジーなど進化史の隣人たちが人間に教えてくれる豊かな知恵、さらには忘れがたき人々の追憶を綴りました。

 これからは恩師たちを見習い、老いの時間を“ワガママ”に楽しみたいと思っています。

※本記事の全文は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」と「文藝春秋」2025年5月号に掲載されています。

『老いの思考法』

老いの思考法

山極 寿一

文藝春秋

2025年3月19日 発売

文藝春秋

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特別エッセイ 僕の敬愛するワガママ老人
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