イクメンブームと共に「いつも笑顔でやさしい育児」が一般化した結果、自身が受けてきた子育てについて「父親は厳しかった」と答える割合は低下し、「よくほめられた」と答える子どもが増えている。そうした現状に、教育心理学者の榎本博明は警鐘を鳴らす。「いつも笑顔でやさしい育児」が孕む問題とはどのようなものなのだろうか。

 ここでは、同氏の著書『イクメンの罠』(新潮新書)の一部を抜粋。さまざまな調査データをもとに、榎本氏が考える理想の父親像について紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

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「父親は遊び相手ばかり」は見当違い

 父親の子育て参加は徐々にではあるが増えている。父親と母親の育児分担割合を調べている国立社会保障・人口問題研究所「全国家庭動向調査」(2018年)では、父親の分担比率は2008年19.5%、2013年19.9%、2018年20.4%というように、ほんのわずかずつだが上昇している。

 分担内容として最も多かった項目が「遊び相手をする」であり、「風呂に入れる」や「泣いた子をあやす」がそれに次いでいる。

 父親がどのような形で子育てに関わっているかを尋ねた別の調査結果では、圧倒的に多いのが、「お風呂に入れる」と「遊び相手をする」だった(時事通信社「父親の育児参加に関する世論調査」2012年)。

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子育てにおける父親の役割

 こうしたデータに触れると、「父親が育児をするといっても、遊び相手をするくらい。子どもの世話は数限りなくあって、母親の負担のほうがはるかに大きい」といった批判の声があがる。

 だが、非認知能力の発達のためには、「遊び」というのはとても重要な役割を担っていることを見逃してはならない。そして、身のまわりの世話をするばかりでは、非認知能力を高めることはできない。それには母性機能ばかりでなく父性機能を発揮することも必要となる。

 人類学者の山極寿一は、類人猿の父親の役割として遊び相手になることを挙げている。ゴリラの社会は父という存在をもつがゆえに、人類の家族につながる特徴を多く保持しているとする山極は、子育てにおける父親の役割について、つぎのように解説する。