「ドーンッ」

 凄まじい爆発音とともに車体が物凄く震動した(おそらく車体が横倒しになった瞬間だろう)。続いて「ゴゴゴゴゴ……」と地響きのような震動。その間、仁美の身体は、まるで洗濯機の中に放り込まれたかのように、跳ね回り、あらゆるところにあらゆる角度からぶつかり、グヮーンという最後の音響と同時に、身体の左側を下にして、何か柔らかい山の上に叩きつけられた。

 このように丁寧に記述すると、かなり長い時間だったような印象になるが、仁美の記憶では、4~5秒程度の短時間の出来事だった。仁美のこの時間感覚は、1両目が脱線してから横倒しになって突進し、マンションの駐車場に前部が突っ込み、後部が右へへし折れてマンションの壁に激突するまでの時間が数秒だったというデータとほとんど一致する。仁美は何と冷静に経過を感じていたことかと、筆者は驚嘆するばかりだ。 

ADVERTISEMENT

脱線しマンションに激突した車両 ©時事通信社

まるで麻袋のようにボフッと鈍い音を立てて落ちた人

 叩きつけられた仁美の上からは、コンクリートの破片や粉々になったガラス片や砂塵が降ってくるので、目を開けることができない。10秒ほど経ったろうか、バラバラ降ってくるものがなくなったので、上体を起こして、そっと目を開けた。上のほうに窓があって光が射しているが、辺りは暗くて、自分がどこにいるのか、見当がつかない。

 上の窓の向こうに優先座席の派手な柄のシートが見える。ほこりが光に照らされて舞っている。その方角から、2つの黒い影がなぜか今ごろになって降ってきて、自分のすぐ前のところと右横にまるで麻袋のようにボフッと鈍い音を立てて落ちた。人だ。だが動かない。自分が奇跡的に生き残った数少ない乗客の1人だとは思ってもみなかった。

 自分が座っているところが柔らかいので、何の上にいるのかと、暗闇に慣れてきた目で見ると、人の山ではないか。手や足や頭がいくつも見えるのに、呻き声すら聞こえない。一体何人いるのかわからないほど積み重なっている感じだ。

 眉間にパンチを食らった時のような鋭い臭いが、鼻と口内に刺し込んできて、鼻の奥と喉が痛い。鉄が激しい摩擦で焼けたような臭いと言おうか。上の光が届いている辺りに、白いワゴン車の前半分が、車内にめり込んでいるのが見える。

《この車と衝突したのだろうか》

 ぼんやりそんなことを考えて、見回した。

《うわーっ、ぺしゃんこだ》

 やっと車両がめちゃめちゃになっている状況の一端がつかめてきた。