上野 ものすごく予定調和的ですね。個人の最適な選択が最終的には調和に至るという市場原理に対する信頼をあなたが持っておられるということですか? ちょっと驚きですね。IT企業も誰かが投資し、誰かが設計し、誰かが支配する。そのなかにイーロン・マスクのような人もいます。
AIについて分かっていることは「AIは差別を再生産する」ということです。AIに投入している情報はすべて過去の情報ですから、様々な過去の差別が再生産されるのは当たり前のことなので。
成田 差別や格差の懸念はあります。その危険を乗り越えた世界が予定調和的に訪れると信じているというより、一つの可能な楽観シナリオを描いてみているということです。
信用経済の最大の問題は…
上野 あなたの新刊『22世紀の資本主義』も拝読しました。ご自身で「失敗作」と書いておられるとおり、空疎なSFですね。ただ、あなたのSF的予想の中で大筋で同意できるのは、今日、グローバル金融資本主義の時代に入ったという認識です。金融資本主義というのは基本的には信用経済ですから、この先、信用経済になっていくという予測は100パーセント一致しています。信用経済における一番大きな問題は、信用格差ができるということです。それには触れておられませんね。
成田 現状では信用格差の問題は深刻ですね。ただ長期的には、信用なる概念自体が、今みたいに測ったり比べたりしやすいものから、そうでない不可測なものへ進化する可能性があります。信用が定量化できなくなれば、格差という概念自体が消えていく可能性さえある、という楽観シナリオを思い描いています。(構成 伊藤秀倫)
※この対談の全文(約7000文字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」と、「文藝春秋」2025年5月号に掲載されています(上野千鶴子×成田悠輔「あなたは世代間対立をあおっています」)。
■連載「成田悠輔の聞かれちゃいけない話」
第1回 米倉涼子「独立して扱われ方が変わりましたよね。ギャラとかも」
第2回 隈研吾「大きな新築は宿命的に炎上するんじゃないかな」
第3回 上野千鶴子「あなたは世代間対立をあおっています」<<この記事
