レコーディングでも、弟は、テイチクのキングでしたから、みんな遠慮して、ダメ出しや、注文は殆どつけないみたいでした。

弟の歌にダメ出し

石原慎太郎氏(左)と裕次郎氏 ©︎文藝春秋

 私には、弟のために作詞作曲した歌が二つあります。両方とも、都会的なソフィスティケーティッドな曲ですが、実は、別の歌手に頼まれて作ったものです。ところが、その歌手が、新曲を吹き込んだばかりだから、半年待ってくれと言う。弟に話をしたら、

「それなら俺に唄わせろ。俺の歌になれば、第一、印税が違うぞ」

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 と乗り気です。欲に目がくらんだわけではありませんが、早く世に出したいので、弟に唄わせることに決め、一つの条件を出しました。

「お前の歌の吹き込みは乱暴だから、俺がディレクターをやる」

 と。

 そこで、レコーディングの日に立ち会ったわけですが、一杯飲みながら、8曲ぐらい吹き込む。最初に一枚分、裏表2曲吹き込むのを見ていたら、別に弟は威張り散らしているわけではないけれど、ディレクターは大分遠慮している。私が聴いても、リハーサルを一回やるごとに良くなることが分かりますから、もう一回やって本番にしたらよくなるなと思っていると、弟が、

「今のでいいだろう」

 と言う。ディレクターも、

「はい、結構です」

 と答える。ちょっと歌詞の解釈が違うなというところがあっても、ディレクターは、結構ですの一点張りですから、

「駄目だ、遠慮せずに言いなさいよ、いまのなんか、もう一回やったらもっとよくなる」

 と言っても、結構です、でお終(しま)いです。

 私の曲になった時、今度はそうはいかないぞと、

「駄目、もう一回リハーサル。ここは違うんだよ。もうちょっと長目にやれ」

 などと注意すると、

「うるせえなあ」

 ディレクターがハラハラして、本番にしましょうとなだめにかかりますから、

「いや、駄目だ、もう一回だ」

 と言ったら、弟が、

「馬鹿野郎、俺はこんなに何回もリハーサルしたことないんだ。ぐずぐず言うんだったら、手前で唄え」

「何言ってんだ。こんなの、俺が唄ったほうがよっぽどいい」

 すると弟がすかさず、

「おい、兄貴に唄わせろ、唄わせろ。みんなで聴こうじゃないか」

 それで伴奏が始まってしまいました。で、私が唄ったわけですけれど、当然うまくいくはずはない。

「リールバックしてすぐ聴かせてやれ」

 弟が言うので、仕方なく聴きましたが、弟はニヤニヤ笑うばかり、こちらも笑うしかありません。

「分かったか?」

「いや、分かった」

 これで、弟のさっきの吹き込みでOKということになってしまいました。

次の記事に続く “がん闘病”中の石原裕次郎は慎太郎に「兄貴、元気でいいなあ」と…「初めて弟に、後めたいような気がしたのを覚えています」

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