翌日からは天候は悪化する予報である。この美しい日本の春を一日でも長く、1人でも多くの人に見てもらおうと、誰が用意したのか照る照る坊主がそこかしこの枝に吊り下げられていた。

 

穴水駅から離れると、そこは瓦礫の山が平地の荒野に変わっただけ…

 しかし、のと鉄道の現在の終着駅、穴水より半島を奥に進むにつれ、状況は一変する。確かに震災前と同じというわけにはいかんが、道路事情は改善しとる。週末の能登鹿島駅周辺だけである。渋滞しとったんは。沿岸部の瓦礫の山も低くなった……というより、瓦礫の山が平地の荒野に変わっただけ、いまだゴーストタウンと化したまま。沿岸部から急こう配の山間部に入っても、いたるところで林道は崩落したまんま、大型車両も入れず、住民の帰還を拒みつづけている。

 

 そんな激甚被災地にも花は咲く。まるで震災や豪雨災害で出た瓦礫や廃材を肥しにするがごとく健気にたくましく咲き誇る。しかし、そこに集う住民は誰もいない。笑顔も見えない。歓声の代わりに耳にとびこんでくるのは重機のうなりやダンプのエンジン音ばかりである。皆震災と豪雨災害の後かたづけにと、日々生きていくことで精一杯、この桜を愛でる余裕は持ち合わせていなかった。

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 再び時折しも能登半島で桜が満開を迎えた週末の4月13日、石川県内各地に置かれていた避難所すべてが閉鎖され、そこで長く住み暮らして最後の1人になっていた住民も仮設住宅に移っていった。たとえ自宅とは比べもんにならんほど不便な避難所生活でも住み慣れた地で、知り合いも多い地元にとどまることすらもはや叶わんのである。

撮影 宮嶋茂樹

INFORMATION

能登へ
―写真家たちが写した能登半島地震、豪雨災害―
令和6年元日に発生した能登半島地震。同年9月、今度は非常な豪雨が被災地を襲った。 写真家たちはカメラを抱え行くとと鳴く能登へ通った。相次ぐ被災に翻弄されながらも、懸命に生きる優しき能登の人たち…。
不肖・宮嶋が撮影した作品も本写真展で展示されます。

会期:令和7年4月29日(火・祝)~令和7年5月6日(火・振休)
開場:午前10時から午後5時(最終日は午後3時まで)入場無料
会場:きんしんギャラリー(金沢市南町3番1号 南町中央ビル2F)北國新聞会館隣り
主催/合同会社notophoto(代表・頼光和弘)
協力/朝日新聞社、産経新聞社、中日新聞社、共同通信社、吉川護氏、宮嶋茂樹氏、澁谷敦志氏(順不同)

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