それでも、ペリコ家は崩壊してしまった。邸宅に隠しカメラを仕込んでいたドミニクは、娘や息子の妻たちの盗撮写真もインターネットで共有していたのだ。これにより次男夫婦は離婚している。自分のものではない下着で眠っている写真を撮られていたキャロラインは性器裂傷も負っていたが、証拠がなかったため別件で提訴している。彼女への虐待疑惑をジゼルが認めなかったことで、母子関係にも亀裂が入ってしまったという。ドミニクが幼い孫たちに加害した疑念も残った。

ジゼル・ペリコ氏と次女。フランス・アヴィニョンの裁判所で ©getty

「家庭とは、安全地帯のはずです。性犯罪の現場になるなんてあってはいけない」。キャロラインの言葉にもあるように「マザンの怪物」事件のおそろしさとは、知らず知らずのうちに家族の男性に襲われるリスクの可能性を女性たちに気づかせてしまったことだ。類似事件も浮かび上がっている。

「マザンの怪物」は世界中に潜んでいる

 ドミニク・ペリコの犯行のきっかけとなったのは、定年間際にのめりこんだインターネットだった。人生ではじめて同じ過激性癖の者と話し合っていくなかで、ある看護師から誘われてやる気になったのだという。やがて自身もチャット仲間に犯罪を勧めるようになり、自身の「クローン」と呼ぶ弟子をつくっていった。ジゼルに集団暴行を加えるなか「ほかに襲いたい女性はいるか」と聞かれた若者が自身の母親を挙げて薬を貰い受けたケースもあった。

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 ある暗号化アプリを調査したドイツ公共放送局ARDによると、妻や母親への危害について語る英語コミュニティには、7万人もの参加者がいた。そのなかでは、欧米での犯行も中継されていた。

スペインのマドリードにあるフランス大使館前で開かれた、ジゼル・ペリコ氏を支持する集会で掲げられたポスター ©getty

 日本においても、インターネットを介した集団暴行計画や、仲間うちでの承認欲求を満たすために娘の盗撮写真を共有したケースが報告されている。「21世紀最悪の性犯罪」と呼ばれた怪物は、世界中に潜んでいるのかもしれない。

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