「21世紀最悪の性犯罪」。そう呼ばれるまで欧米を震え上がらせたのが「マザンの怪物」事件。犯行の被害は比べられるものではないが、この事件がおそろしいのは、家族すら信頼できなくなることだ。
妻を薬で眠らせ10年におよぶ集団暴行
事件の舞台は、フランス南部のマザン。2020年、60代のジゼル・ペリコ夫人は、終の棲家として美しい田舎町に居住していた。夫のドミニクとは、10代のころ一目惚れして結婚して以来、50年連れ添った仲。電力会社管理職の妻と事業主の夫として、ダブル不倫の危機も経験したが、3人の子どもを立派に育て上げた「完璧な一家」と評判だった。
幸福な余生を送るなか、ジゼルは不可解な健康問題に苦しんでいた。記憶喪失や失神、さらに婦人科系の病気に苛まれたため、アルツハイマーや脳腫瘍を疑ったものの、医者にかかってもわからずじまい。結局、原因を暴いたのは、警察であった。
夫のドミニクが、スーパーマーケットで女性を盗撮して捕まったというのだ。そこで、警察が彼のパソコンを調べると「虐待」というファイルから、2万件もの映像や写真が発見された。
※ここから先、性的暴力についての具体的な描写があります。読者によっては、フラッシュバックを引き起こすことやショックを受けることが予想されます。読み進める前にご検討ください。
映っていたのは、夫婦の寝室。過激な下着を着せられ下品な言葉を身体に書かれて眠っているジゼルが、無数の男たちから何度も襲われたり暴力をふるわれたりしていた。約10年分の膨大な証拠に映っていた加害者は70名におよび、犯行現場は夫婦で短期滞在した娘の邸宅や別荘にも及んでいた。
このおそるべき集団暴行を主導していたのは、夫のドミニクだった。約10年間ものあいだ、妻の食べものに薬を混ぜて眠らせ、インターネットで勧誘した男たちを家に招き「やること」を指導しながら避妊もなしに暴行させていたのだ。