力道山がいきなり平手でホステスを殴った
つい半月前『東京クラブ』のホステスが、力道山に殴られたことがあった。そのホステスは、他のホステスの姉さんクラスのホステスだった。
そのホステスが、力道山に、「女を世話しろ」とせがまれ、断った。
「わたしは、やり手婆ぁじゃないんですからね」
すると、いきなり平手で殴られた。プロレスラー相手でも、空手チョップで相手は引っくりかえる。それを女がまともに平手打ちを食ったのだからたまらない。意識を失い、病院に担ぎこまれた。左の鼓膜が破れて聞こえなくなってしまった。
そのホステスが、「力道山をなんとかしてくれ」と安藤に訴えてきたことがあったのだ。
安藤は、あらためて思った。
〈力道というやつ、表面では英雄とまつりあげられているが、質の悪いやつだ。おれを舐めるにもほどがある〉
力道山の自宅付近で狙い撃ちに
安藤昇は、さっそく力道山攻撃を開始した。まず、大田区池上(いけがみ)の力道山の自宅付近に網を張った。
力道山の邸宅は、小高い丘の住宅地にある。門前は、割りに狭い道路に面している。恐らく、彼のキャデラック・コンバーチブルが通るにはやっとの道幅であり、その道に入る前にはどうしても速度をゆるめる。
安藤は、自ら自分の車マーキュリー・コンバーチブルに乗り、力道山の通る同じ道を走らせ、予行演習を繰り返した。
安藤は、助手席に乗っている子分たちに言った。
「おれの車でも、ここで一旦停止しなくてはならない。やつの車は、当然、停まることになる。この曲がり角の空き地の生け垣が、狙い撃ちにかっこうだ。いいな、この生け垣に隠れて、この道を通る力道山を狙い撃ちしろ」
安藤のもとに、生け垣に交代で隠れて狙わせている子分から電話連絡が入った。
「社長。力道山め、恐れて、家に寄りつきませんよ」
別の情報網から、電話が入った。
力道山は、弟子を3人車の横に乗せ、実弾を装填した猟銃をたえず携帯し、何処へ行っても寝る間も離さないらしい。
大塚稔は、『純情』に出かけ、ボーイにいった。
「とにかく、安倍を呼べ」
しばらくすると、プロレスのレフェリーの安倍治ではなく、東富士が出てきた。
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