FKで壁の下を抜いてくることは分かっていた
たとえば、前半39分のコロンビアのFKのシーンだ。
長友佑都がクリアし損なったボールをファルカオと長谷部が競った末にゴール前でFKを取られた。相手のファールにもみえたが、判定は覆らない。長谷部が悔やんだのは、このFKへの対応だった。
「FKは、スカウティングでコロンビアが壁の下を抜いてくるのをかなりやっていたんで分かっていたんです。だから、壁はジャンプをし過ぎず、ボールが通らないぐらいのジャンプをしようという話をしていたし、実際に壁を作っている時も『ジャンプし過ぎるな』という話をしていたんです。でも、そういう中でやられてしまった。これで引き分けになっていたらもったいないことになっていました。そういう小さなところからしっかりと詰めていかないといけない」
また、攻撃についても長谷部は表情をしかめた。前半3分にMFのカルロス・サンチェスが退場になってから、日本は期せずしてボールを持てる展開になった。しかし、ハリルホジッチ前監督時代は縦への速いカウンター攻撃主体で、西野監督が引き継いだ後も選手間の連携の精度を高める練習を十分にできていなかった。そのツケが出たように遅攻がなかなか機能しなかった。
「前半に関していうと、僕ら中盤のボランチが下がり過ぎた感じがあったし、真司もサコも引いてくるという形になったんで、相手にとっては全然怖くなかったと思う。後半は修正できたけど、これが11対11になった時、どれだけできるか。遅攻の部分の精度については、もっと高めていかないといけないと思っていますし、それが次への課題だと思います」
W杯で勝つことがいかに大変なことか
キャプテンらしく、勝っても浮かれることなく課題を口にする。ただ勝てばいいのではないのだ。W杯で勝つことがいかに大変なことか。前回のブラジルW杯で1勝もできない苦い経験をしてきただけに、細部にこだわる。それが次の試合に生きるからだ。
「セネガル戦まで4日あるんで、しっかり休んで、また明日から。自分たちは相手を研究して、自分たちのやり方を決めるサッカーをしているので研究をしっかりしないといけない。もちろん今回の課題も修正していく」
表情は淡々としているが、この勝利がいかに大きなものか、W杯の1勝の重みを長谷部は理解している。なんとなくふんわりしていたチームがひとつ勝つことで加速をつけてまとまっていく。2010年の南アフリカW杯がまさにそうだった。そこではベテランが果たす役割が大きい。今回は本田圭佑がベンチにいながら一番声を出して応援したり、吉田麻也がロッカーの洗濯物を片付けたり、ベテラン勢の献身がチームに一体感を生み出している。
「それが自分たちの強みでもあるんで」
キャプテンは、そう言うと少し表情を崩した。長谷部の妥協なき勝利への厳しさもまたチームの“強み”である。強みを増した日本の快進撃が始まろうとしている。