各地を旅するようになった理由

 ちょうど仕事を通じてスタッフやクリエイターと知り合う機会が増えた時期でもあった。そこで会った人から、突破口を見つけるべく話を聞いたりもした。なかでもスタイリストの北村道子からは大きな影響を受けたという。当時、北村はインドに毎年行っており、鶴田は自分もいま行けば色々と吸収できると思ったので「今度行くときに連れて行ってほしい」と頼み込んだ。しかし返ってきたのは「今だと思うなら、わたしを待たずに、今行きなさい!」との言葉だった。「それにインドじゃなくたっていいじゃない」とも言われた(「SWITCH ONLINE」前掲)。

29歳当時の鶴田真由〔1999年撮影〕 ©時事通信社

 この言葉に押されて、彼女は生まれて初めて一人旅に出た。行き先には屋久島を選び、泊まった民宿で夕食の準備を手伝ったり、同宿の人たちと島を回ったりと、一人で行ったからこその経験がたくさんあったらしい。屋久島でものづくりの原点は自然のなかにあると気づくと、原点を見たからにはそこから生まれた表現を見たいと思い、さらにニューヨークへ飛んだ。そこでアートや演劇を観て回る日々をしばらく送ったという(『週刊現代』2018年6月9日号)。行きたかったインドにはその数年後、30歳のころにドキュメンタリー番組の取材で初めて訪れた。

インドに関する書籍も出版『Silence of India』(鶴田真由、小林紀晴/2017年、赤々舎)

アフガニスタンに2ヶ月滞在、直後に同時多発テロが発生

 その後も国内外を問わずあちこち旅して回っている。31歳となった2001年には、ニューヨークにしばらく滞在したあと、やはりテレビのドキュメンタリーの撮影のためアフガニスタンを6月から2ヵ月にわたって旅した。アメリカでニューヨークの世界貿易センタービルなどが攻撃された同時多発テロが発生したのは、この旅から帰国した直後だった。事件を受けてアメリカ政府は、テロ組織を支援するタリバンの支配下にあったアフガニスタンを報復攻撃する。彼女にはニュースで見るいずれの国の光景も実際に見たばかりで、強烈なリアル感を受けると同時に、無事に帰って来られたことを不思議に思わずにはいられなかったという(『InterCommunication』No.41、2002年)。

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2022年にはNHKの番組でイランを訪問(鶴田真由のインスタグラムより)

人生を充実させなければ充実した演技はできない

 旅や人と会うことは彼女にとって仕事と同じくらい大切なもので、以下の発言からすると、言わば車の両輪のようなものらしい。

《女優というのは自分を出す作業だと思うんですね。いわばアウトプット。同じ役でも人によって演じ方や印象が異なるというのは、演じ手の人生が演技の向こう側に透けて見えるからでしょう。ということは、人生を充実させなければ充実した演技はできないわけで、その意味でも仕事だけにはなりたくない。いろんな人と出会って、いろんなところにも出かけていきたい。そういうインプットの作業をしていかないと、女優として出すものがなくなってしまうと思うんですよ》(『婦人公論』2003年8月22日号)