経済学者・成田悠輔さんがゲストと「聞かれちゃいけない話」をする新連載。第3回目のゲストは、東京大学名誉教授の上野千鶴子さん。新たに公開した「ノーカット完全版」の一部を紹介します。

 

「フェミニズムズ / FEMINISMS」展(2021年)についての成田さんの批評に、上野さんは当時「ムカムカする」と批判。こうした過去の経緯を、上野さんが成田さん本人に改めて問い直すと……。

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男の書く“クリシェ”が困る理由

 成田 どこかのだれかが、上野さんの表現を借りればいかにも男らしい反応をネット上に書いた。そのことにそれほど怒りを感じられるのはなぜでしょうか。

 上野 私はアート批評よりも文学批評にかかわってまいりましたが、例えば〈この作品はフェミニズムを超えている〉とか、クリシェ(決まり文句)があるんです。

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 あなたの書いた批評は、そういう男の書くクリシェにピッタリ当てはまっていた。うろ覚えですが、最初に“マイノリティの反乱は血を流すようなものでなければならない”という意味のことを書かれましたね。それから、“怖いか怖くないかで言うと、僕には怖くない”。いずれも、いつかどこかで見たクリシェなんです。そういうものを一つ一つ潰していく作業を私どもはやってまいりました。すべてに手が及ぶわけではありませんけどね。

上野千鶴子氏(左)と成田悠輔氏は今回が初対談 ©文藝春秋

 成田 クリシェであることは構わないんじゃないでしょうか。正論なクリシェや正直なクリシェもあるので。

 上野 クリシェで性差別を再生産していただくのは困ります。しかも、あなたのような若い方が。

 成田 一番不思議に思ったのは、そういう言葉尻が「性差別の再生産」として時間を割いて議論するほど大それた話なのか、ということですかね。

 上野 とおっしゃいますが、フェミニズムはそういう些細な異議申し立てを積み重ねてきたのです。

 成田 はい。そういう些細な異議申し立てばかりされていることへの疑問、ということになるのかもしれません。

 上野 女の子がお茶くみするかどうかとか。いちいち相手にするほど値打ちのあることかと言われれば、そういうことの積み重ねが性差別の再生産というものですから。「ブルータス、お前もか」ですね。

上野千鶴子氏 ©文藝春秋

 成田 無数のクリシェの中でどれを拾い、どれと戦うかの基準はあるんでしょうか?

 上野 もちろんあります。私も得意分野とそうでない分野がありますので。あれは私がたまたま批評を書いてくれと頼まれた場だったからです。そこにあなたが登場なさった。もともと接点のない方ですし、私はあなたを知る必要は全くなかったのですが、あれをきっかけにご縁ができました。

 成田 私の自覚も深まりました。