「借金返さねえと殺すぞ!」

 たとえば、何か気に入らないことがあれば、顔を真っ赤にして怒りだし、その理由も説明せずに、晴子に対して手を上げる。殴られたり、物を投げつけられたりするのはいい方で、物をつかって流血するまで痛めつけられることもあった。晴子からすれば、いつ激昂するかもしれない母親との同居生活は、猛獣と暮らしているような思いだっただろう。

 また、経済的にも生活が成り立たないと感じるほどに貧しかった。アパートには風呂がついていないのに、友理は酒を飲んでばかりで娘を銭湯に連れて行こうともしない。そのため、部屋の台所で体を拭くことしかできず、皮膚の病気に悩まされた。服もボロボロでサイズの合わないものが2、3着あるだけで、学校では常に恥ずかしい思いをしていた。誕生日やクリスマスの御祝いもなかったので、小学2~3年生になるまでケーキを見たことさえなかったという。

 小学2年の時、そんな友理が3度目の結婚をする。相手は、同じく夜の店で知り合ったトラック運転手だった。朝起きたら何度か布団で寝ていたことがあったので顔は知っていたが、ある日突然母親から「新しいパパになる」と言われたのだ。驚きより、これでようやく家に出入りする男が1人で済むようになるという安堵の方が大きかった。

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 だが、三度目の結婚生活も、ひどくみじめなものだった。新しい夫は結婚して間もなく、運転手の仕事を失う。次の仕事を探すことなく飲み歩くので、借金だけがどんどん膨らんでいき、気がついた時には、アパートに借金取りが押しかけて来るようになった。

毎日のように借金取りが家に来た ©ideyuu1244/イメージマート

「ドアを開けろ! 借金返さねえと殺すぞ!」

 毎日のようにドアの前では、借金取りのいかつい怒声が響く。