国家から「反社会的組織」と定義されている暴力団。その構成員や準構成員の家族、とりわけ子どもはどのような人生を過ごし、大人になっていくのか。『ヤクザの子』(石井 光太著、新潮社)から一部抜粋してお届けする。なお、登場する証言者やその関係者は、身に危険が及ぶことを考慮して全て仮名にしている。(全3回の3回目/1回目を読む/2回目を読む)
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地元の公立中学へ進学した後も、晴子はほとんど学校へは登校しなかった。似たような境遇の友人数人とつるんで店でよく万引きをしていたが、それは空腹を満たしたり、寂しさを紛らわしたりするための手段だった。
そんな生活が急変するのは、中学1年の夏だった。ある日突然、母親の友理がアパートから出て行ったきり帰ってこなくなったのである。すでに3番目の夫とは別れていたから、別の男のもとへ行ったとしか考えられなかった。数日後、友理から連絡があった。彼女は晴子に言った。
「今、母さんは横浜の河野竜司のところにいるの」
竜司は山口組の構成員であり、晴子の実父だ。なぜ9年前に別れた元夫の家にいるのか。友理は答えた。
「ヨリをもどすことにしたんだよ。晴子にしたってお父さんの竜司といる方がいいでしょ。こっちに来て暮らそうよ」
友理はこれまでも竜司と度々会っており、約10年ぶりに復縁したらしかった。