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「クジラが見える! クジラだ!」父は覚醒剤で狂った
彼女の目の前に現れたのは、ドラッグを生業とする暴力団のもっとも汚く愚かな姿だった。
竜司も自分自身をコントロールできなくなっており、日夜、強迫観念や幻覚に悩まされていた。突然、部屋から飛び出して来て、「この野郎、死ね!」と叫んで晴子に殴りかかったり、怯え切った顔で天井を指差して「晴子! クジラが見える! クジラだ!」と逃げ惑ったりする。ある時は、かつて自殺した昔の恋人が襲って来たと言ってガタガタと震えだしたこともあった。
晴子の言葉である。
「学校ではいじめられていたし、家の中はクスリで無茶苦茶だったから、引っ越して半年も経たないうちに何もかも嫌になっちゃいました。横浜に来れば、何かが変わると期待していたのに、何倍も悪くなっただけだった。自分の人生にまったく希望が見いだせなかった」
そんな晴子に歩み寄って来たのが、女子の先輩の不良グループだった。彼女たちは晴子の中に自分たちと似た匂いを感じ取ったのかもしれない。街頭でたむろしようと誘ったり、レディース(女子暴走族)の集会に連れて行ったりした。
晴子は孤独を紛らわすように、先輩たちとの夜遊びに夢中になった。ある日、予想もしていなかったことを知らされる。