家にも学校にも居場所はなく、野外にいると性犯罪に巻き込まれた
両親は居留守をつかっているので、晴子がドア越しに「お父さんとお母さんは仕事に行ってます」と嘘をつかなければならなかった。それでも、新しい夫は生活態度を改めようとせず、どこからか金を借りて来ては昼間から飲み歩く。酒癖も悪く、千鳥足でアパートに帰っては、家族に悪態をつく日々だった。
晴子は言う。
「毎晩、目の前で見せつけられる夫婦喧嘩が本当にうんざりでした。2人ともバカみたいに叫んだり、殴り合ったりするんだけど、小さな私は泣くしかないじゃん。そしたら、今度は『うるせえ』って私まで殴られるんだから。
再婚によってますます貧乏になっていったな。母さん1人の時は単に貧乏ってだけで済んだけど、再婚してからは借金取りが来るようになったから恐怖まで加わった。いつ何時来るかわからないから、常に怯えていた感じです。
あと、空腹がつらかった。家でご飯をつくってもらえないので、給食でお腹を満たすしかなかったんだけど、母さん、給食費を払ってくれなかったんです。ある日、担任の先生にクラスのみんなの前で立たされて、『おまえは給食費を払ってないから、給食を食べる資格はないぞ』って言われた。それからかな、同級生から『ボンビー』『臭い』って言われだして、いじめが本格的にはじまったのは。それでだんだんと学校へ行かなくなった」
家では借金取りと夫婦喧嘩に翻弄され、学校ではいじめに遭う。そんな彼女が、朝から晩まで街を行くあてもなく徘徊するようになったのは必然だった。だが、小学生の女の子が無防備で野外にいれば、悪い大人に目を付けられることもある。そのせいで、彼女は10歳までに二度にわたって性犯罪に巻き込まれた。最初は、道を歩いていた時、見ず知らずの男が近寄って来て、親しげに言った。
「僕は、この近くの学校で先生をしているんだ。今、あるお家を捜している。この辺に詳しくないから一緒に来て道を教えてくれないかな」