2日目、封じ手は飛車先を伸ばす手だった。さらに6筋の歩を突いて仕掛けた。そう、永瀬は千日手を狙うつもりなどなかったのだ。藤井は打開するために必ず自陣にスキができる。そこで反撃に転じると。なんという練りに練った作戦なのだろう。

 永瀬は桂を跳ねて飛車先交換し、後手も1歩を手持ちにした。藤井が5筋の歩を突き、攻め合いに。これで両者とも攻めに困ることはなくなった。

控室で検討を行う広瀬章人九段(左)、中村修九段(中央)、阿久津主税八段(右)

武富礼衣女流初段は「兄弟子と一緒に仕事ができて嬉しいです」

 私は11時ごろ現地控室に。立会人の中村修九段、副立会人の広瀬章人九段(毎日新聞)・阿久津主税八段(朝日新聞)にあいさつし早速、検討に加わる。

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 永瀬は9筋の歩を突き捨てたいのだが、香を9二に上がっているため、逆襲されたときに香を取られてしまう。

 広瀬が「いつ端を突き捨てるかが難しいですね」と言えば、中村が「神経を使う将棋だねえ」と応じる。

 大盤解説会の解説と聞き手として、佐藤天彦九段と武富礼衣女流初段が控室に。2人は中田功八段門下の11歳差の兄妹弟子だ。コンビで解説するのは初めてだそうで、「兄弟子と一緒に仕事ができて嬉しいです」と、とっておきの扇子を見せてくれた。武富が女流棋士になる前にいただいたそうで、なんと直筆だ。扇子に直接書くのは難しいが、佐藤の筆はとてもうまい。佐藤本人も「我ながらうまく書けていますね」と笑った。

控室で兄弟子の直筆扇子を広げる武富礼衣女流初段

 佐藤は局面を見て「選択肢が多くて難しいですね」と言い、阿久津も「形勢判断が難しいなあ」と言って全員でうなずいた。突き捨てを忘れると証文の出し遅れになる。早すぎるととがめられる。

自陣に爆弾を抱えたまま戦う

 昼食休憩が終わり、永瀬は56分の長考で7筋の歩を突いた。藤井が5筋を取り込めば、永瀬はこのタイミングで9筋を突いた。藤井は手抜きで2筋に歩を打つ。そして藤井が5筋と2筋に歩を進め、永瀬は9筋に歩を進める。双方に大きなキズができた。飛車先に加え、5、7、9筋で歩がぶつかった。4筋も3筋も衝突する変化があちこちで出てくる。1筋以外すべてで歩がぶつかり、盤面全体を見なければならない。自陣に爆弾を抱えたまま戦うという、神経を使う将棋になった。