14時に大盤解説会が始まった。

 佐藤の言葉のチョイスが絶妙で、観客を話に釘付けにする。解説そっちのけで独演会となり、現在の局面(77手)まで解説するはずが、56手までしか進行しなかった。次の出番の広瀬と阿久津が「我々がそこから解説するとは思わなかった」と苦笑い。

大盤解説会を盛り上げた佐藤天彦九段

 さて局面に戻る。藤井が9筋で歩を謝り、永瀬に手番が渡った。記録係は入馬尚輝三段と吉田響太三段で、交代で休憩したときは彼らも検討に加わった。広瀬と入馬は早稲田大学の先輩後輩だ。休憩中の吉田が2筋中段に歩を垂らす手を予想し、それが当たる。「指しにくい手ですがなるほど。気が付かないなあ」と阿久津が感心する。間近で一緒に考えているだけあって読みが鋭い。その歩を藤井が取ったところで、17時の夕休憩に。

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対局2日目の夜、とても「軽食」ではない

 この対局の10日ほど前、別の対局で永瀬の観戦記を取った後に話を聞いた。中華料理屋に入り、いっぱい頼んでもりもり食べた後、永瀬が「昔も研究会が終わった後、中華にいきましたね」と懐かしそうに語った。かつて、蒲田将棋クラブで棋士・アマ強豪と一緒に研究会をしていた時期があった。彼はまだ奨励会1級だったが、私は純粋に1局も勝てなかった。

 昔話から名人戦第1局の話題になり、「(2日目の)夕食もしっかり食べたいんです」と語っていた。今回、主催者に申し入れ、通常のメニューから選べるようになった。ということで、永瀬は和牛ビーフカレー(サラダ付)を頼んだ。藤井もとろたく鉄火丼(特上)と、どちらもガッツリした食事を頼んだ。とても「軽食」ではない。

野戦に備えて永瀬がオーダーした和牛ビーフカレー

 写真を撮りながら、「これは遅くなるなあ、終電を調べておいたほうがいいかな」と記者と軽口を叩いたが、まさかそれが伏線になるとは思わなかった。第1局の観戦記で私がつづった言葉が伏線になることも――。

写真=勝又清和

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