警察官たちの「日常の謎」とは?

D 『交番相談員 百目鬼巴』は、警察を退職して「交番相談員」として働く初老の女性、百目鬼巴が、若手警察官たちと接しながらいろんな事件の裏側を見抜いていくという短編集です。でも普通の警察小説とは少し違っていて、警察官たちの「日常の謎」とでも言えばいいのでしょうか。ふつう、日常の謎を扱った作品では、殺人などの大事件は起きないものだと思うんですけど、実は警察官にとっては、事件が日常なんですよね。

K 確かにそうかもしれません。

D 日常のなかで殺人事件に遭遇したりですとか、基本的に警察官にとっての日常って平和じゃないものだと思うんです。そういう警察官の日常とミステリーをうまく絡めて書いていて、特に第一話。

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K 「裏庭のある交番」ですね。

D これが私にとっては不意打ちで。面白過ぎる! と思ってそこからは一気読みでした。

K 冒頭部分の百目鬼巴、まるでホームズみたいじゃないですか?

D ですよね。トラックの運転手だと名乗る人が財布を失くしたからとお金を借りにきて、同僚の若手警察官は寸借詐欺だと思うんだけど……

K 百目鬼は「これこれこういう理由から、この人は嘘をついていない」と見抜いて。

D 一緒に働いている警察官も、読者も「ただものじゃないな」と思う、素敵な導入でした。

K 見事にポイントをおさえた紹介をありがとうございます。実はこの作品、私が単行本の編集を担当したのですが、最初に「オール讀物」で原稿をいただいたのは石井さんなんですよね。

石井 そうなんです。まず、文藝春秋と長岡弘樹さんの関わりから話しておきますと、この作品より前に、『119』という消防士を視点人物にした作品を書いていただいていまして、そのころから「次は警察官ですね」という話はしていたんです。

K しかし石井さんが「オール讀物」から異動になって、次の作品までしばらく時間が空いてしまうんですよね。

石井 久しぶりに「オール讀物」に戻ってきて、また長岡さんに執筆をお願いしようと思ったときにですね、非常に重要な本が文藝春秋から出るんです。みなさんご存知でしょうか。服藤恵三さんという方の『警視庁科学捜査官 難事件に科学で挑んだ男の極秘ファイル』。

『警視庁科学捜査官』服藤恵三(文藝春秋)

K タイトルは存じ上げていますが、まだ読めていなくて。

石井 これはね、本当にすごい本で、これから警察を舞台にミステリーを書こうという作家の方は絶対に読んでおかなくてはならない必読の資料なんですよ。

K この服藤さんという方は、日本初の「科学捜査官」だということなのですが……

石井 警視庁で最初に科学捜査官のポストに就いた方で、どのくらいすごいかというと、例えば今から30年前、地下鉄サリン事件が起きましたね。地下鉄で人がバタバタと倒れ、まったく原因が分からないなか、使われた薬品がサリンであるということを日本で最初に鑑定した方なんです。

D えっ、超有名人じゃないですか。

石井 和歌山カレー事件で使われたのが「ヒ素」ではないかとアドバイスしたのもこの方です。

K そちらも? ……すごすぎませんか?