森バジルさんの新刊『なんで死体がスタジオに!?』は、前代未聞のバラエティミステリ! 同じく福岡に拠点を置き、本格ミステリを執筆する荒木あかねさんとの対談の模様をお届けします。(撮影=石川啓次)
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荒木 森さんとはデビュー時期がほとんど同じで、ずっと九州に住んでいるというのも共通していますが、お会いするのは今日が初めてですね。
森 僕が『ノウイットオール あなただけが知っている』で松本清張賞を受賞しデビューしたのが、2023年7月。荒木さんが江戸川乱歩賞受賞作『此の世の果ての殺人』でデビューされたのが、22年8月でした。僕が一つ後輩です。実は大学の同窓でもありますよね。期は重なっておらず、かつ学部も違うのですが、先ほど合唱団に所属していたと伺いました。僕はバンドサークルだったので、ここは共通点と言えるでしょうか。
荒木 何らかのタイミングですれ違っていたかもしれません(笑)。
森 今日お会いするにあたって、欠かせない要素として有栖川有栖さんの作品も予習してきました。作家を目指すきっかけが有栖川作品だったのですよね。
荒木 そうなんです! 通っていた中学校の図書室に、ある日突然、「オールスイリ 2012」というムック本が並んでいたんです。当時は特別本をたくさん読んでいたり、ミステリが好きだったわけではなかったのですが、ムック本の珍しさに手に取りました。読み切りがいくつか掲載されていたうちの一つが有栖川有栖さんの「探偵、青の時代」という一篇で、あまりの面白さに衝撃を受けたんです。そこからはミステリをずっと読み続け、書き続けて、今に至ります。火村英生シリーズは、私にとって大切なシリーズです。
森 僕は逆に、本格ミステリをほとんど通りませんでした。本格を書くとなると、「このトリックの先行作にあたるものは何か」という知識が欠かせませんよね。一朝一夕で得られるものではなく、僕自身の読書量が不足していることもあって、トリックを扱うことに苦手意識があります……。荒木さんはどのようにトリックを構想されますか?
荒木 私は、トリックよりも、まず先に謎が思いつくタイプです。例えば、ベランダ越しに見えた首つり死体が忽然と姿を消した、という設定が浮かんだとします。次は「どうすればその事態が起こりうるか?」と考える。思いついた可能性をすべて書き出して、中からトリックとして使えそうなものを選んだり、時には組み合わせたりします。
森さんの最新刊『なんで死体がスタジオに⁉』は、ミステリの筋に加えて、お仕事小説、そして芸能界の闇に切り込む物語でもありますよね。
森 死体が出てくる謎解き要素はあるものの、直球のミステリではありません。トリックそのものの魅力で物語を作るのは僕には難しいので、謎や真相を取り巻く特殊な状況を書き込みました。