日本から海外に渡航し、売春で利益を得ようとする人々がいる。彼女たちはいったいどのようにして海を渡り、斡旋する人は何者なのか。

 ここでは、花田庚彦氏の『ルポ 台湾黒社会とトクリュウ』(幻冬舎新書)の一部を抜粋。関係者の証言を紹介する。(全3回の2回目/続きを読む)

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台湾における“海外出稼ぎ”の裏事情

 1回目の渡航の際、トクリュウの話からこうした薬物の話題になったのち、王氏からは覚醒剤の生産工場を見学させてくれるという驚きの提案がなされた。筆者がそれを快諾すると、「工場に連れて行く前に紹介したい人間がいる」と通訳を通して告げ、筆者を事務所の裏の駐車場から連れ出し、いつの間にか用意されていたランドクルーザーに招き入れた。

「せっかく黒社会や街頭の犯罪について取材に来たのであれば、ちょっと面白い取材もしてみませんか? 私の兄弟分を紹介します」

 王氏からこう告げられた筆者は、猛スピードで走るランドクルーザーに乗せられて、10分も経たないうちに台中の市内に入った。目的地であるホテルの車止めに入ると、ボーイが慌ただしく駆け寄り、王氏に丁寧な挨拶をして車のカギを受け取った。まさにVIP待遇である。

「ここは四つ星ホテルですけど、今年(2024年)の春に兄弟分がトクリュウで儲けた金で買収しましてね。今は色々なことをする拠点の一つになっています。私は年間ワンフロアをかなり格安の値段で借りています」

写真はイメージ ©GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

 そう語りながら王氏は、エレベーターでホテルの最上階に近いフロアへと進んだ。目的のフロアに到着すると、王氏の若い衆が待ち構え、部屋に案内する。筆者が使うことはおろか、見たこともないようなスイートルームである。

「ここは私の大事な顧客と密談をしたり、接待を行ったりする場所です。街中にも接待できるような場所がありますけど、そこを使うより密談もできるこの部屋の方が便利なので使っています」

 そう部屋の用途を説明した王氏だったが、筆者はここで当時テレグラムなどの秘匿通信アプリで出回っていたある案件が頭に浮かんだ。そのため、失礼を承知で王氏に「この場所ですが、密談や接待以外にも使用する用途があったりしませんか?」と通訳を通して尋ねてみた。

 すると、王氏は笑いながら「察しがいいですね。実はこのホテルの最上階に、日本から呼んだ女性を泊まらせて仕事をしてもらっています。ご存知の通り、台湾では風俗は違法ですからね」と、このホテルは海外から渡航してきた女性が、売春で利益を得る行為、俗にいう海外出稼ぎの現場であることを告白したのだ。

 この海外出稼ぎの条件や相場について王氏に聞いてみると、期間は最低1カ月で、旅費、滞在費、ホテルのシングルタイプが無料。週休2日制となっており、給与は女性のランクにもよるが、最高ランクでは1カ月1000万円を超えると語った。