法律で禁止されているにもかかわらず、覚醒剤に手を出す人は後を絶たない。その一部は海外から輸入されているケースもあるが、はたしてどのように流通しているのか。

 ここでは、花田庚彦氏の『ルポ 台湾黒社会とトクリュウ』(幻冬舎新書)の一部を抜粋。台湾裏社会の関係者である王氏が明かした、日本と海外の薬物流通事情を紹介する。(全3回の3回目/はじめから読む)

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街頭の大物が所有する覚醒剤工場へ

 はからずも台湾における海外出稼ぎの話を聞けてしまったが、ここで残念な連絡が入った。紹介してもらえる予定となっていた王氏の兄弟分が、他の顧客の接待で体が空かないらしく、今回の取材では会うことができなくなってしまったのだ。

 次回来訪した際には会えるように取り計らうことを約束してくれた王氏に、この後本丸であるところの覚醒剤の工場まで連れて行ってもらうこととなった。

 その工場まで向かうため、王氏は事務所の近くにいるという運転手を呼びつけた。しかし、予定が変わった影響だからだろうか、運転手がこちらに来るまで、20分以上待たされてしまったのである。遅れてきた運転手に対し、王氏は筆者が必要だと思う以上に怒っていたのが印象に残っている。これが街頭のトップとして、普段若い衆や敵に見せている王氏の本当の顔なのかも知れない。

 ホテル近くから高速に乗り、田舎で降りて高雄の山道を小一時間走ったところに目的地となる空き地があり、そこに王氏は車を停めさせた。向かう前に王氏は、「2時間以上の道のりとなるので、寝ながら行きましょう」と提案してくれたのだが、かつてカイエンに乗せてもらった陳氏に勝るとも劣らない荒っぽい運転をされ、寝ることは許されなかった。

 台湾人は運転が荒っぽいことで有名であったが、皆が皆ここまでの荒っぽさだというのは予想外、というのが正直な感想である。もしかすると、王氏のグループ特有のものかも知れないが……。

 目的地に着いた後は、懐中電灯を片手に先を歩いた。近くには人家もあり、いつ密告されてもおかしくはない地域である。心配になった筆者は、そうした可能性について通訳を通じて王氏に尋ねたところ、「この周りの民家は殆どがこの覚醒剤の工場の従業員です。台湾には3000メートル級の山が200峰以上ありますが、そういうところには覚醒剤の工場が多いんですよ。私たちのグループだけでも5つありますから」と回答。どうやら、“身内”しかいないため、安全だということらしい。