「想像している以上の覚醒剤が日本国内で余っているので…」
工場を5つ所有しているという発言に驚いた筆者は、その点についても聞いたが、この中で稼働しているのは現在2つだけだという。残り3つが休眠状態にあるのには、海外マフィアとの争いが背景にあると王氏は語った。
「今年(2024年)の旧正月明け、メキシコマフィアがタイのマフィアと組み、我々を出し抜いて、粗悪な品物を高雄経由で日本に送ったのです。受け取った日本サイドがその粗悪さに気付き『台湾産と思い、高い金を払ったのに』と知人を通して私にクレームが入りました。
私は出荷元を調べ、他のグループの幹部とタイに行って向こうのマフィアのボスと会い、落とし前として腕を千切って、金を払わせました。この金が余っているというのが一つ。そして、想像している以上の覚醒剤が日本国内で余っているので、今は輸出する必要がないというのが一つ。
一番の理由は、トクリュウの儲けが想像以上に大きかったので、他のことをやるより、そっちに注力したいという点ですね」
指ではなく、腕を千切らせた……。誇張であることも筆者は当然考えたが、これが台湾黒社会の真の恐ろしさということなのだろうか。ちなみに、王氏が話したメキシコマフィアとタイマフィアが覚醒剤の取引を日本の裏社会と行ったという話自体の真偽について筆者は掴み切れていないが、春先に関西方面で大きな取引があり、覚醒剤の値崩れが激しいので、関東に半分持っていけるか、などの情報が裏社会で出回っていたのも事実である。
思った以上の値崩れを起こしていたため、印象に残っているが、記憶が確かなら100キログラム100万円で、キロに直すと1万円という破格の値段であったはずだ。覚醒剤の末端価格は0.2グラムで1万円、つまり1グラムで5万円が通常相場で、ここ10年以上変わっていないはずなので、これがどれだけ安価であったかが分かるだろう。
当局は大量の覚醒剤事件を摘発した場合、いまだに末端価格を6万円前後で発表しているが、この数字もそろそろ見直すべき時期が来たのかも知れない。
そんな話を聞きつつ、筆者は王氏が所有する工場の中を見学し、覚醒剤を作る窯など、施設の説明を受けながら施設内を回った。一つの工場で月間の売り上げが約1000万円、年にして1億2000万円ほどあるという。残りの工場も同じ規模であると仮定すると、所有する工場5つをフル稼働すれば、6億円だ。
先程聞いた件などの影響で、需要と供給のバランスが崩れているために、フル稼働させていない、という部分もあるのだろうが、それだけの利益が見込める工場の稼働を捨ておいても、トクリュウに注力した方が儲かるということなのであろう。
覚醒剤は実際には日本でもかなりの僻地に工場があることが多いというのが定説だ(数年前に、名前は伏せるがある大都会の真ん中に小さい工場があったこともあるが、これは特別なケースである)。
その理由としては、覚醒剤を作る際にかなりの異臭が出てしまうことが挙げられる。今回紹介された王氏の所有する工場のように、人里離れた場所に作るのは、こうした特徴を考えれば当たり前のことなのだ。このような密造工場が、観光大国台湾ののどかな山岳地帯に点在することは、同地を愛する人にしてみると、悲しい現実ではあるが、それゆえこれ以上ないほど台湾の実情を露わにする、リアルな情報とも言えるだろう。
