虐待の温床と化した実態を映し出したNHKのルポ

 2023年2月25日、その「内なる差別」が映像として大々的に世間の目に触れた。NHKのETV特集「ルポ 死亡退院~精神医療・闇の実態~」がそれである。

 舞台となった八王子市の滝山病院は、人工透析治療を施す数少ない精神科病院の一つだった。そのため合併症を抱える精神・知的障害者の多くが自治体などの紹介で入院していたが、内部告発や音声記録で構成されるその映像には、看護師による暴行・暴言や法律を無視した身体拘束といった、まさに虐待の温床と化した実態が生々しく映し出された。

 過去10年の退院者は1498人。その78パーセントに当たる1174人が、「死亡による退院」だったことも判明した。入院者の支援に当たる弁護士と患者の音声記録からは、患者のこんな切ない訴えも流れた。

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「僕はこのまま(家に)帰りたいです。(病室に)帰ったら殺されちゃいますよ」

 この患者はそれからまもなく亡くなった(死亡診断名は「急性心不全」)。家族に宛てた助けを求める手紙も、投函されることなく、カルテに挟まったままだったという。

〈イジメにあっております。いま精神的にはとてもしんどいです。助けて下さい〉

知的障害者施設をめぐる事件

 以上のような虐待は、精神科病院内だけの話ではない。前記した「カリタスの家事件」が物語るように、知的障害者施設においても、これまで数え切れないほどの虐待が発覚してきた。

 その一部を列挙すると――。

 1969年(昭和44年)5月、児童を劣悪な環境に置き続けたとして、八王子市の知的障害児入所施設「中央学院」の院長が逮捕された。子供たちに早朝からクズ拾いの仕事をさせ、居酒屋に住み込みで働かせただけではない。重病の少女を医師に診せることなく酷使し、結果的に死に至らせている。この事件を報道した東京新聞の紙面には「鬼畜の院長、地獄の施設」の大見出しが躍った。

 1995年には茨城県水戸市の段ボール加工会社「(有)アカス紙器」の社長が、障害者雇用の助成金を不正に受給している詐欺容疑をかけられた。その近辺調査で表面化してきたのが、従業員である知的障害者に対する恒常的な虐待行為だった。角材やバットでの殴打。漬物石を膝に置かれた状態での長時間正座の拷問。さらには、知的障害を抱える女性従業員への性的暴行も頻繁に行なわれ、その被害者は複数人に及んだ。

 その2年後の1997年夏、福島県白河市の入所施設「白河育成園」で、入所者が理事長の度重なる暴力や性的被害を受けてきたことが明るみに出た。さらに、嘱託医に無断で入所者に大量の向精神薬を服用させていたことも発覚し、白河育成園は全国初となる自主廃園に追い込まれた。

 2005年4月には、山口県宇部市の入所施設「うべくるみ園」で、複数の職員による入所者への度重なる虐待が明るみに出た。ターゲットにされたのは重度の知的障害者で、殴る蹴るの暴行を受けただけでなく、真冬日に冷水も浴びせられた。その入所者は黒い羽根に異様な恐怖心を抱き、それが目に付くたびにパニック状態に陥った。職員は彼に黒い羽根を近づけると、パニックになったその姿を見ては、笑い転げていた……。