「津久井やまゆり園事件」
以上のような知的障害者施設での虐待が次々と白日の下に晒されるなか、2016年7月26日の未明、日本中を震撼させる凄惨な事件が起こった。19人の入所者が刺殺され、職員2人を含む26人が重軽傷を負った「相模原障害者施設殺傷事件」、通称「津久井やまゆり園事件」である。
犯行に走ったのは、元職員の植松聖(死刑確定)。彼は同園への入職当初こそ「障害者は可愛い」「この仕事は天職」などと知人に話していたという。それが、街から離れたこの閉鎖空間での職歴を積んでいくうちに、「障害者は人間扱いされていない。可哀想だ」との想いに駆られ、さらに「意思疎通が図れない人間は、安楽死させるべきだ」という歪んだ観念に支配されていく。
2016年2月、勤務中に同様の発言をしたことから「ナチス・ドイツの考えと同じだ」との施設側の注意を受けたが、植松のような凶行に走らないまでも、こうした「内なる差別」を密かに抱く者が、植松以外にも存在しないわけではない。
全国手をつなぐ育成会連合会の佐々木桃子会長(前出)は言う。
「津久井やまゆり園事件が起きたときは、うちでも声明文を出しました。『障害のある人もない人も、私たちは一人ひとりが大切な存在です』。こんな内容の声明文で、多くの方から賛同のメールや電話をいただきました。しかし、一方では『とんでもないことを言うな』などという批判のメールが多数あったことも事実です」
障害者権利条約の批准からわずか2年。殺人事件として戦後最悪の犠牲者を出したこの「津久井やまゆり園事件」は、私たちの胸の奥に潜む差別的な考えや優生的な想いに、容赦のない問いかけを発する。「自分は植松と違う人間なのだと、はっきり言い切れるのか」――と。
そして、こうした自身に対する内省的な問いかけがおざなりにされたとき、新たな虐待の芽が育まれる可能性が生まれる。
