日本車はアメリカで売れるのに、アメ車は日本で売れていない。長らく続く自動車貿易摩擦への不満を、「ボウリング球による安全試験」などという空言とともに蒸し返してきたトランプ大統領。

 その言い分を聞いていると、まるで日本側が悪意をもってアメ車の輸入を阻んでいるかのようだ。ある意味、「これではアメ車が売れるわけがない」と、一番強く信じ込んでいるのはトランプ氏なのかもしれない。

自動車貿易摩擦への不満を蒸し返すトランプ米大統領 ⒸCNP/時事通信フォト

 もちろん過去を振り返れば、しっかり売れているアメ車もあるのだから、貿易摩擦の原因を日本側の制度に求めるのは見当違いというものだ。

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 むしろ反対に、「ヒットしたアメ車」の例から浮かび上がってくるのは、トランプ氏にとって「あまりに不都合な現実」なのである。

ジープしか売れない日本市場

 まず現在、日本でもっとも売れているアメ車はジープのラングラーである。いわゆる「ジープ」といって一般にイメージされるワイルドなクロカン車(クロスカントリー:悪路走行に特化した車)であり、軍用車の流れを汲む堅牢なイメージとオフロード性能の高さから、世界中にファンの多い車種だ。

ジープ ラングラー 画像は公式サイトより

 とくにここ10年ほどはSUVブームの影響もあり、日本国内におけるジープブランドの販売台数は年間1万台前後で推移し、プジョーやルノー、フィアットなどを上回る水準にある。2016年のフォードの日本市場撤退など、他のアメ車メーカーの惨状を考えると、驚異的なまでの快進撃といえる。

 なかでもラングラーは、「都市型SUVとは一線を画する本格クロカン車」としての地位を確立しており、2021年には輸入車の新車登録台数ランキングで年間トップ10に入っている。競合するベンツのGクラスよりも安く、ランクルよりコンパクトな点も、日本での受容を後押ししていると考えられる。

 ただやはり、ラングラーのヒットは長年積み重ねたイメージによる部分も大きく、この例をもって「アメ車でも売れる」と一般化することは難しいだろう。アメ車メーカーに「ラングラーと同じように売ればいい」といっても、参考にならないのは明らかだ。