「アメ車らしいアメ車」がヒットしたことも
アメ車らしさを失わないまま日本市場に受け入れられた例としては、1990年代にミニバン市場を先取りしたシボレー・アストロが挙げられる。威圧感のあるデザインと広大な室内空間が特徴で、現在の高級ミニバンの先駆けともいえる存在だった。
今でこそアルファード/ヴェルファイアの独壇場となっている日本の高級ミニバン市場だが、当時はそもそも「ミニバン」というカテゴリ自体が馴染みのないものだった。多人数乗車が可能な3列シートといえば、ハイエースやタウンエース、キャラバンといった商用ベースの車種がほとんどで、どこか無機質で味気ないイメージがあった。
そうしたなか、「大勢がラグジュアリーな気分で移動できる」という点で、アストロは唯一無二の存在だったといえる。たしかにボディは大柄で、右ハンドルの設定もなく、燃費も悪い。一見、「日本で売れないポイント」を備えた、アメ車らしいアメ車であるようにも思える。
しかし「日本の道路には少し大きすぎる」という点が、アストロの場合にはかえって手つかずの市場を掘り起こしたのかもしれない。車に「イカつさ」を求める層のほか、キャンパーやサーファー、アクティブなファミリー層などなど、さまざまなニーズの受け皿になったのである。
時勢を捉えた「懐古趣味」が奏功
2000年に登場したクライスラー・PTクルーザーも、日本市場でヒットを記録した数少ないアメ車のひとつだ。1930年代風のレトロなデザインと実用性を兼ね備え、累計で1万4000台以上が販売された。
サイズはヴェゼルやシエンタなどと同程度であり、右ハンドルも当初から設定された。見た目に反して荷室の使い勝手も良好で、日本での日常使いにも適した仕上がり。アメ車らしからぬ高いルーフは日本のコンパクトカーと通ずるところがあり、乗降性にも優れていた。
現在でも「レトロな車に乗りたいが、実用性は捨てたくない」といった声はしばしば聞かれるが、当時はフォルクスワーゲンのニュービートルや、BMWのミニなど、かつての名車を現代風にアレンジして再販する戦略が功を奏するケースが見られた。
PTクルーザーもこの流れのうちに位置づけられるモデルであり、もともとはクライスラー内の大衆車ブランドであるプリムス復活の旗印として開発されていた。
結局、プリムスブランドは廃止に向かい、PTクルーザーはクライスラーブランドから発売されることになるのだが、「機能性を備えた小型車を奇抜なデザインで」という既存のアメ車の枠に囚われないコンセプトは、こうした経緯なしには実現しえなかっただろう。

