モンベル創業者、辰野勇氏はかつて自作のキャンピングカーを乗り回し、“移動式社長室”で仕事をしていた時期があるという。いったいどんな車なのか。
辰野氏の著書『自然に生きる 不要なものは何ひとつ持たない』(角川新書)の一部を抜粋し、当時のエピソードを紹介する。(全2回の2回目/最初から読む)
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それは「できない」ではなく、「やらない」という選択
人は、できないことを「他人のせい」や「環境のせい」にしがちです。
「仕事が忙しいから旅に行きたくても、行けない」「まとまった休みが取れないから登山がしたくても、できない」……。でも、「本当にやりたい」のであれば、多少の障害があったとしても、「やる」のではないでしょうか。
私は以前、キャンピングカーで日本全国を旅しながら、仕事を続けたことがあります。
「社長室はキャンピングカー」というわけです(笑)。
しかも私のキャンピングカーは、幼稚園の送迎バスでした。
そうなったきっかけは、今から30年ほど前、幼稚園の園長先生が集まる会合に招かれて、八王子(東京都)にある幼稚園で講演をしたことです。
質疑応答の時間に園長先生から、「辰野さんはこれまでさまざまな冒険をされていますが、これからやってみたいことはありますか?」という質問をいただきました。
ふと窓の外に視線をやると、幼稚園の送迎バスが目に入ったので、「あそこに止めてあるようなバスが手に入ったら、キャンピングカーに改造して、リタイアしたあとに日本中を回ってみたいですね(笑)」と答えました。するとその園長先生が、「辰野さん、あのバスでよかったら差し上げましょうか? 最近では園児が減ってきてバスが余っているので、中古でよければ使ってください」と言ってくださったのです。
またとない申し出でしたので、モンベルのテントと交換していただきました(園長先生自ら、バスを大阪まで運んでくださいました)。
改造に必要な資材をすべて自分で調達して、当時高校生の息子と一緒に、キャンピングカーを自作しました。座席を取り払い、トイレとキッチンを設置して、ベッドになるテーブルをつくり、屋根の上にはソーラーパネルを装備。
リタイアを待つまでもなく、自作のキャンピングカーに乗って、妻と2人で九州から北海道まで全国を、数回に分けて1年ほどかけてまわりました。
風の吹くまま、気の向くまま。川を見つけたらカヌーで下ってみる。山があれば登山靴を履いて登ってみる。自由でした。バスは窓が広いので、360度、景色を楽しむことができます。冠雪の阿蘇山の外輪山の圧倒的な美しさは、今でも脳裏に焼き付いています。