ただ一歩先を目指す

 以前、ある進学校の理事長から、「勉強ができる生徒の共通点」についてうかがったことがありました。名門大学に入学できる生徒には、「集中力と持続力と判断力」の3つの力が養われているというのです。

「3つの力は人間が生きていく上で最も大切な『生きる力』であり、その力を身につける方法は無限にあります。勉強でも趣味でもスポーツでも、その道を真剣に求めることで、その力が養われる」とおっしゃっていました。

 学生時代の私は、お世辞にも勉強ができたとは言い難く、むしろ落ちこぼれ的な存在で、卒業も危ぶまれたほどです。

ADVERTISEMENT

 それでも私には、人並みの「集中力と持続力と判断力」が備わっていると自負しています。それは、登山やカヤックを実践したなかで身につけることができたのだと思います。

 アイガー北壁(ヨーロッパ・アルプス三大北壁のひとつ。1969年、筆者が当時の世界最年少記録〈21歳〉・最短登攀記録〈21時間〉で登攀)を登攀する前夜、緊張と不安で寝つけませんでした。「生きて帰れないかもしれない」……。

アイガー北壁 ©EarthScapeイメージマート

 ですが、登攀の日を迎え、岩に取り付いた瞬間に、心が無になりました。ただやるべき次の瞬間を目指す。ただ一歩先を目指す。その感覚は、「禅の境地」に近いものなのかもしれません。

 1800メートルの岩壁を登るという作業は、想像を超えた果てしないことだと思われます。ですが、現実は「1メートル登る」ことを連続するだけの行為なのです。

最初から記事を読む 「心が押しつぶされそうになりました」62歳で大腸がんを宣告されたモンベル創業者が気づいた“恐怖心”の受け入れ方