「オーナー様に家賃を支払うことが困難な状況です」
ところが、それから1年後。オーナーに支払う家賃変更に関する通知が届いて、安定した生活は一変した。
運営していたスマートデイズが、オーナーに支払う毎月の家賃を全額は支払えなくなったというのだ。当面、銀行への借金返済額のみの支払いになるという通知と同時に銀行との融資交渉を勧める案内が同封されていた。
「これは危ない」。そう思ったオーナーは、融資を受けたスルガ銀行へ返済条件の見直しを相談したり、知り合いの不動産会社、弁護士などに今後の対応について相談した。家賃が全額振り込まれなくなる日も近いのではないかと戦々恐々としていた。
その不安は的中した。
2018年1月、スマートデイズからオーナー向け説明会の案内が届き、出席したところ「オーナー様に家賃を支払うことが困難な状況です」という説明があったのだ。聞けば、急激にシェアハウスをサラリーマンや医者などに販売し拡大してきた同社は、入居者獲得に苦戦し、全体の入居率はわずか30%台だった。
会場内には「なぜ、こんなことになってしまったのだ」と頭を抱えるオーナーの姿が多く見られた。
年収1000万円の高所得サラリーマンがターゲットに
約800人もの人たちを苦境に追い込んだ「かぼちゃの馬車」。
年収1000万円前後の高所得サラリーマンをターゲットに販売し、運営して急成長したスマートデイズは今年4月破産手続きを開始した。
運営会社はなくなっても、オーナーには1棟1億円前後の借金と入居者がいないシェアハウスは残る。自力で運営を始めるケースや他の運営会社に切り替えるケースなど再建を始めるオーナーたちだが、スマートデイズから振り込まれていた家賃には程遠い金額しか入ってこないのが現実だ。
そんな厳しい状況の中、精神的に追い詰められたオーナーの中に自殺者が出るという残念な事態まで発生した。
さらに、今回の事件は、「預金通帳残高の改ざん」などオーナーに積極的に融資した銀行の不正関与が発覚。前出のオーナーもまた、シェアハウスを販売した会社により、自身の預金通帳残高は改ざんされていた。
「銀行が融資しなければこんなことにならなかったのに」
オーナーにとって、返せない借金を抱えることを防ぐ最後の砦だったはずの銀行。その銀行の審査機能が働かなかったどころか、シェアハウスの販売・運営会社と結託していたことにより、社会問題にまで発展している。