毎週金曜日の夜、一週間の勤務を終えて帰宅したサラリーマンがぼんやりテレビを見ていると、お堅いイメージの強いNHKの番組から「ボーッと生きてんじゃねーよ!!」という怒鳴り声が飛び込んでくる。
花金の夜を居酒屋で過ごして深夜に帰宅しても、土曜日の朝、ぼんやりまなこでテレビをつけると、いきなり画面から「ボーっと生きてんじゃねーよ!!」と突っ込まれる。
2018年4月からレギュラー番組として始まったNHKの雑学クイズ番組「チコちゃんに叱られる」は毎週金曜日の夜と土曜日の朝(再放送)に、このボーッと生きている日本人に5歳のチコちゃんというキャラクターが活を入れるという構成で人気を博している。
「空気を読む」は形を変えて「忖度」に
番組自体は、たとえば「バースデーケーキのろうそくの火はどうして吹き消すのか?」といった他愛のない問題に答えられなかったり、間違えた回答をするゲストに対してチコちゃんが件の決め台詞を吐くだけの単純なものだが、問題の内容はともかくこの番組の根底に流れているのが、街頭で同じ質問を受ける日本人たちの何とも言えぬ「のんびり」加減である。質問を受ける人々のほとんどが、「えーっ、わかんない」とか「知らなかったあ」と言って無邪気な顔を晒しているのだが、平和な国ニッポンの象徴的な光景だともいえる。
数年前、世間では「空気を読む」という流行り言葉があった。この言葉は現在、形を変えて「忖度する」になっているが、こうした流行語の背景も全く同じだ。自分の意見は言わずにひたすら流れに身を任せるだけのボーっとした日本人像だ。これを日本人の特性だとみる向きもあるが、実は日本社会の歴史的な構造の変化がもたらしているものとみられる。
急速にサラリーマン化している日本社会
江戸時代の日本は「士農工商」という階級社会があったが、現代に言い換えれば「サ農工商」の社会になっているのが日本だ。総務省の「労働力調査」によれば、2018年3月における就業者数は6694万人であるが、このうち雇用者の数は5933万人、就業者全体の88.6%がサラリーマンというのが現代の日本社会である。
50年前の1968年3月でみると就業者数4965万人に対して雇用者数は3107万人でその割合は62.6%にすぎない。世の中で「働き手」としてカウントされる15歳から64歳の人口を意味する生産年齢人口は98年で8692万人だったが現在は7562万人と約13%も減少しているが、同じ期間で雇用者数は5389万人から5933万人へと約10%も増加している。つまり日本の社会が急速にサラリーマン化しているのだ。