“大好きだった叔母”から着想を得ていた
──本作では初期の作風を思わせる、スリラー要素も含まれています。この映画のアイデアはどこから着想されたのですか?
オゾン 子どもの頃の個人的経験からです。大好きだった叔母が自分で採ってきたキノコ料理を家族にふるまってくれたことがありました。たまたま私は食べなかったのですが、食べた家族全員がひどく体調を崩しました。この出来事に私は強く惹かれ、「もしかしたら叔母は家族全員を毒殺しようとしていたのではないか」というアイデアを思いついたのです。おかしな話ですが、そういうことを空想するのが好きな変わった子どもでした。
大人になってサッシャ・ギトリ監督の映画『とらんぷ譚』(36年)を観た時に、久しぶりにこの時のエピソードを思い出しました。そして、人は誰でも無意識に誰かを排除しようとしているのではないかと考えたのです。
そうしたところから、一見すると理想的な優しい祖母に見えながら、実は見た目以上に不穏な一面をもつミシェルという人物を生み出しました。
オファーの経緯
──キャストは脚本のイメージに合わせて選ばれたのですか?それともキャストを先に決めてから脚本を書かれたのでしょうか。
オゾン 両方あります。ただ、脚本を執筆しながら、『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』(18年)で一緒に仕事をしたエレーヌ・ヴァンサンとジョジアーヌ・バラスコの顔を思い浮かべていました。あの作品では小さな役でしたが、重要な役で、彼女たちとの仕事がとても楽しかったので、また一緒にやりたいと思っていたのです。
エレーヌ・ヴァンサンは、映画では主役を務めることがあまりありません。しかし、彼女は硬質な強さと深い優しさを同時に表現できる素晴らしい女優です。脚本を書き終えた時、80歳を超えていた彼女に健康状態と、2カ月の撮影に耐えられる準備はできているかを尋ねたところ、「ええ、ええ。とても元気だし、本当にやりたいわ」と答えてくれたので、ぜひお願いしたいとオファーしました。

