三島の自決を知って感じたこと

――三島歌舞伎では、「地獄変」の露艸(つゆくさ)も演じておられます。

 原作が芥川さん(=芥川龍之介)。あのお二方の合作では、役者として耐え難いところがありますよね……(笑)。私ね、自分でやっていながら、娘が焼け死ぬ姿がなぜ美しいのか、さっぱりわからなかったです。やらなきゃならないからやったけど、ほとんど理解出来ませんでした……(笑)。

――露艸は、かつては中村歌右衛門さんが演じていました。

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 歌右衛門さんにはそういった部分が良い意味で根本にあったと思うので、そこで三島作品と融合したのかも知れません。私はそういうことは意外となかったんです。淡泊というか。ただ、三島先生の眼に映った私の中にはそういうものを見られたのでしょうか。でも、私は自覚できなかったです。

――三島の自決を知ってどうお感じに?

 申し訳ないことですけど、大変なことだとか、お可哀そうだとか、もっともだ、とかじゃなくて、「ああ……結局、芝居書いてくれないのね」って思いました。すみません……。

――それはつまり、もっと戯曲を書いてほしかったということですか?

 さんざん文化のことを言い、歌舞伎のことを言い、言葉を大事にって言っていたのに、「死んじゃったの」という感じでした。なにしろ、その時、はたちでしたから。でも、三島先生が亡くなった後、芝居を書けた小説家は有吉佐和子さんくらいではないでしょうか。そう考えると、三島先生がもっと私たちに芝居を残していてくださったら、と思います。おかしな言い方かもしれませんけれど、三島さんご自身が芝居をなさったら、あのような死に方をすることもなかったかもしれない、そう思うこともあります。

©︎文藝春秋
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