中敷きの分析結果を別の商品に流用

 A氏は大学を中退して専門学校に通い、柔道整復師の資格取得後は実の兄が親族と経営する整骨院や、健康関連商品の販売を共同で手がけてきた。

 その中の1つが靴のインソール(中敷き)の開発と販売。この中敷きを仮にXとするが、Xは14年に開発、商品化された。その際、整骨院の患者やスタッフ、約1000人にモニターとして利用してもらい、使用前後で体に良い効果が出ているかを測定。そのデータを札幌市内勤務のある医師が分析した結果“統計学的に優位な効果があった”として宣伝、販売されてきた。

 この中敷きXには、石川選手も宣伝に協力している。18年12月、A氏の兄が100%出資し、A氏が社長を務めていたZ社と石川選手が、中敷きXに関するアドバイザリー契約を締結した。翌年10月には、そのほかの商品に関しても同様の契約を結んだ。

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A氏(右)が代表を務めていたZ社とアドバイザリー契約を結んだ石川選手

 それから間もなく、兄弟の関係が決定的に悪化した。双方を知る関係者の話をまとめると、兄が整骨院の治療や商品開発に専念するため、兄や親族が代表を務めていた関連企業の代表権をA氏に譲った後、その取り扱いをめぐってトラブルが起きたという。

 翌20年の年明け早々、各社の株式を握る兄はA氏を代表取締役から解任。翌21年に入り、A氏は逆に兄に対して民事訴訟を提起した。翌22年に親族のとりなしで和解したとされるが、絶縁状態は今も続いている。

 くだんの中敷きを含む健康関連商品の在庫は、和解の前にZ社ごと兄からA氏に譲渡された(Z社はその後、名称を変更)。和解の際、兄が商標権など知的財産権を持つ商品は破棄し、今後も使用しないことが確認された。

 A氏はその後、別の中敷きYを開発。これは現在もA氏が代表を務める企業の通販サイトなどで売られているのだが、そこには前出の医師によって分析された中敷きXの使用効果をうたう文言がそのまま流用されている。

 法曹関係者は「景品表示法第5条第1号により、商品やサービスの品質を実際より優れていると偽って宣伝することはできません。これを『優良誤認表示の禁止』といいます。故意かどうかは問題ではなく、誤って表示された場合でも規制されます。同法第7条第2項の規定により、優良誤認表示に該当するか否かを判断する必要がある場合、消費者庁は期限を区切ってその事業者に表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができます」と解説する。