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粘菌vs.チャタテムシ 北大の異能が語り合う「もしかしてイグ・ノーベル賞狙ってた?」

“粘菌研究者”中垣俊之דチャタテムシ研究者”吉澤和徳 初対談【後編】

note

娘の名前を考えるよりも時間がかかった「トリカヘチャタテ」

中垣 この新種の日本名を「トリカヘチャタテ」と命名したのも吉澤さんなんですか?

吉澤 そうです。平安時代の古典に『とりかへばや物語』ってありますでしょう。『君の名は。』みたいに男女入れ替わっちゃう物語。そこから取りました。これはウケる話だから、名前も絶対面白いものにしようって必死に考えて。正直、娘の名前を考えるよりも時間がかかりました(笑)。

「僕たち科学者は事実から世界を捉えなおさなければならない」

中垣 吉澤さんが授賞式のスピーチでおっしゃった「私たちの発見は世界中の辞書を時代遅れのものにしました」というメッセージが印象的でした。

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粘菌の動きは交通インフラ設計に応用できる

吉澤 中垣さんの研究にも「辞書を時代遅れのものにした」発見があるんじゃないですか?

中垣 「単細胞」という言葉の定義を変えたかもしれませんね(笑)。粘菌に計算能力があって、さらにはネットワークの広げ方が、人間の交通網の整備の仕方と酷似していることもわかった。粘菌は人類の偉大なる先輩なんです。

吉澤 中垣さんの2度目の授賞は「粘菌を用いて、輸送効率に優れた最適なネットワークを設計する研究に対して」。イグ・ノーベル交通計画賞が与えられたわけですが、この実験もなんか面白そうですよね。

 

中垣 実際の鉄道網って山とか川とか地形に左右されるので、その辺はどう考慮して実験したんですかって質問されることもあるんです。この実験の際にはですね、山の標高が高いところや、水のあるところ、つまり交通網が敷きにくい場所と仮定したところには強い光を当てたんです。粘菌は光を嫌うので、そこには行こうとしないわけです。すると、そこをなるべく避けて、効率的な移動経路を形成する。それが、実際の人間社会の交通インフラ設計に応用できるだろうと。そういう実験をしました。

イグ・ノーベル交通計画賞は「粘菌を用いて、輸送効率に優れた最適なネットワークを設計する研究に対して」