粘菌研究者・中垣俊之さんと、昆虫学者・吉澤和徳さんによるイグ・ノーベル賞受賞者対談。後編は誰も聞けなかった「本当は賞を狙ってた?」話から、ちょっと真面目な科学論まで!(6月3日、北海道大学CoSTEP主催による「第100回サイエンス・カフェ札幌」でのイベントを抄録・再構成した記事です。司会はCoSTEP特任助教の古澤輝由さん/全2回の2回目・前編より続く)

左から吉澤和徳さん、中垣俊之さん

73時間続く交尾

中垣 吉澤さんはこのオスとメスがひっくり返った虫をどうやって見つけたんですか?

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吉澤 共同受賞者でもあるスイスの研究者、チャールズ・リーンハードが特殊構造の交尾器を持つ虫について報告をしていたんです。彼は友だちだったんで「これは絶対面白いよ」って言ったら、「じゃあお前がやれ」と(笑)。それで生息するブラジルの洞窟の中で探し回って、メスがオスに馬乗りになって交尾しているのを発見したんですよ。あれ、これ変だぞと。それで交尾の仕方を観察するなど実験を重ねていったんです。それで分かったのは交尾時にメスはペニスをオスの体内に挿入し、精子と栄養を吸い取るということ。びっくりしたんですが、この交尾は短くても40時間、長いのは73時間も続くんですよ。

 

中垣 いやあ、それはすごいな(笑)。

吉澤 「メスの陰茎、オスの膣、そしてそれらの共進化」という題の論文で、絶対ウケると思って書きました。ところが「メスのペニス」なんてあり得ないと世界中から散々批判されたんです。でもそれは従来の定義による批判なんですよね。確かに辞書を引けば陰茎とは「オスの交接器」とある。しかし僕たち科学者は事実から世界を捉えなおさなければならない。たとえメスが持っている構造であっても、その機能がペニスと寸分違わないのですから、それをペニスと呼んで何が悪いか。もともと性は、精子を作る個体がオス、卵を産む個体がメス、というふうに定義されていて、ペニスの有無は関係ありません。

「絶対ウケる」と思った論文を紹介する吉澤さん