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異色すぎるイグ・ノーベル賞学者が語り合う「性器の形が大事な理由」

“粘菌研究者”中垣俊之דチャタテムシ研究者”吉澤和徳 初対談【前編】

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「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる研究」に対して贈られるノーベル賞のパロディ、イグ・ノーベル賞。実は2007年から日本人が11年連続で受賞していることをご存知ですか? その知られざる世界を受賞者同士が語り合いました。(6月3日、北海道大学CoSTEP主催による「第100回サイエンス・カフェ札幌」でのイベントを抄録・再構成した記事です。司会はCoSTEP特任助教の古澤輝由さん/全2回の1回目・後編に続く)

第100回サイエンス・カフェ札幌 左から吉澤和徳さん、中垣俊之さん、司会の古澤輝由さん

洞窟で虫を探してて、授賞式に行けなかった

吉澤 こうして中垣さんと「対談」するのは初めてですよね。よろしくお願いします。

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中垣 お互いイグ・ノーベル賞受賞者同士として話すのはこれが初めて。ちょっと不思議な感じがしますね。

――中垣先生は単細胞生物・粘菌の研究で2008年と2010年に2度にわたってイグ・ノーベル賞を受賞。吉澤先生は昨年、性器の形状がオスとメス逆転した新種の昆虫を発見して受賞しました。

吉澤 お互いの研究の話をする前に、イグ・ノーベル賞の授賞式がどんなものなのか中垣さんにお伺いしたいんです。というのは僕、せっかくの授賞式に行けなかったんですよ。日本の洞窟で虫を探している途中だったので(笑)。

 

中垣 受賞スピーチの代わりに、洞窟の中で撮影した動画でメッセージを寄せていましたよね。

吉澤 30秒以内っていう、恐ろしく厳しい縛りがあって大変でした。

 

中垣 スピーチにも時間制限があって、一定時間を過ぎると「飽きちゃった、もうやめて」ってステージ上に女の子がやってきて話を遮ることになってる(笑)。さすがノーベル賞のパロディというだけあって、権威を転倒させるというか、いろんな仕掛けのある楽しい授賞式なんです。本物のノーベル賞受賞者がサプライズゲストで登場して、雑用させられたり(笑)。

トンデモ研究に思われたらどうしようって

吉澤 このイベント自体も本場のイグ・ノーベル賞授賞式を模しているそうですね。オープニングに参加者の皆さんがステージに向かって紙飛行機を飛ばすのも、恒例なんだそうで。

本場イグ・ノーベル賞でも行われる紙飛行機の「儀式」

中垣 そうそう。遊びの雰囲気が多分にあるんですけど、賞の選考はいたって真面目なものなんですよ。私は最初、この賞の性質がよく分かっていなかったので、賞をもらってしまったら、世間から自分の研究がどう受け止められるか不安でした。トンデモ研究に思われたらどうしようって、授賞式に出るべきか迷っていたくらいなんです。でも選考は謎ですが、ノーベル賞受賞者を含むハーバード大学やマサチューセッツ工科大学の教授陣が参加しているようです。授賞式もハーバード大学のサンダーズ・シアターという講堂で行われ、世界的な科学者たちが参加しています。極めて真面目に、そして笑える科学の祭典という感じです。