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異色すぎるイグ・ノーベル賞学者が語り合う「性器の形が大事な理由」

“粘菌研究者”中垣俊之דチャタテムシ研究者”吉澤和徳 初対談【前編】

賞金は10兆ジンバブエドル

――イグ・ノーベル賞選考委員会には毎年1000人くらいから自薦の書類が届くそうですが、27年の歴史の中で、自薦で受賞できた人は1人だけだとか。

吉澤 そうなんですか。そんな中、中垣先生は2回も受賞されてるってすごいですね。

中垣 実は私、お笑い系ノーベル賞をもう1個もらっているんです。NHKで爆笑問題さんがやっていた『探検バクモン』という番組で「爆ノーベル賞」をもらっているんですよ。あともう1つくらいお笑いノーベル賞をもらえたら、いよいよ本物のノーベル賞がもらえるんじゃないかって思ってます(笑)。

イベントでは特別トロフィーが贈呈された

吉澤 ハハハ。本物のノーベル賞は賞金が約1億2500万円だそうですが、イグ・ノーベル賞の賞金たるや……。10兆ジンバブエドルですからね。

中垣 日本円に換算したら、だいたい0.37円(笑)。イグ・ノーベルをあと98回もらっても37円ですよ。それより受賞して嬉しかったのは、授賞式会場でブノワ・マンデルブロ先生にお会いできたことです。経済学や流体力学に応用される「フラクタル理論」を提唱した大数学者。思わず握手をしに駆け寄ってしまいました。

――イグ・ノーベル賞は11年連続で日本人が受賞しています。これまでにはドクター中松さん(栄養学賞)といった個人のほか、カラオケ(平和賞)、たまごっち(経済学賞)、バウリンガル(平和賞)といった商品を開発した日本人にも賞が与えられています。お二人の研究は分野が違いますが、同じ科学者として、お互いのお仕事で注目されている点はありますか。

 

「単細胞」が実は賢いんだぞってこと

吉澤 僕は中垣さんの論文を、研究室のお茶部屋にポンと置いてあった『Nature』をパラパラめくっているときに発見したんです。率直に「面白いことやっている人がいるなあ」って思いました。それからやや時間を経ての受賞だったと思いますが、ニュースを知って、「ああやっぱりそうだよな、イグ・ノーベル賞はこれでしょう」って思いました(笑)。というのは、この賞の一番の魅力って、研究者が作り上げた「実験デザイン」の面白さだと思うんです。

中垣 ああ、なるほど。

吉澤 中垣さんの最初の授賞理由は「粘菌に迷路を解く能力があることの発見」ですよね。このために粘菌をわざわざシャーレの中に作った迷路に置いて観察するという実験をしている。でもこれ、中垣さんがやっている粘菌研究に絶対に必要な実験じゃない気がするんです(笑)。遊びの部分でやった実験じゃないですか?

「粘菌に迷路を解く能力があることの発見」を説明する中垣さん

中垣 ハハハ。これは粘菌という「単細胞」が実は賢いんだぞってことを、どううまく見せようかという実験で、確かに「見せ方」の工夫をするのに遊びの要素を入れたってことはありますね。

吉澤 一度見たら忘れられないようなインパクトがありますよね。ゴールに置いた餌のオートミール目指して、粘菌が正しい道をニュルニュル進んでいく様子は。

中垣 見た人が一目瞭然でその意味を理解できるような「エレガントさ」を狙いました。