白いスカートは血で赤く染まり、息苦しさが辛く…
次に意識が戻ったのは、救助隊の人に身体を支えられてマンションのすぐ前に連れ出された時だった。花奈子は、そのまま地面にしゃがみこんだ。目の前には、見たこともないような潰れた形になった2両目の車両が、マンションにへばりついている姿があった。それ以外の車両もジグザグ状にそれぞれが勝手な方向を向いて壊れている。
自分の姿はと見ると、白いスカートが血で赤く染まり、片方の靴がなく、手に持っていた鞄もなくなっていた。額を触ると出血している。手、肩、足など身体中が痛くて動かすことができない。一番辛かったのは、息苦しいことだった。呼吸困難に陥りそうだった。周りには、怪我をした人たちが横たわっていて、みなぐったりとしている。
しばらくして、花奈子は担架でブルーシートの敷かれた場所に移された。すぐに病院に運ばれるのかと思っていたが、一向にその気配がなかった。周りでは、負傷者一人ひとりに対して、医療班による搬送と治療の優先順位を決めるいわゆる「トリアージ」の救急診断が行われていた。
1分1秒を争って治療を急ぐ必要のある重篤な負傷者には「赤」のタグをつけ、現場での応急処置だけでしばらく待っても生命に別状はない負傷者には「黄色」のタグをつける。現場で死亡が確認された人には「黒」のタグをつけて、とりあえず現場に安置しておく。
「赤」のタグがつけられ、救急車に乗せられて
「この人、赤だ。搬送! 先だ」
「この人、黄色。しばらく待ってください」
そんな声が飛び交うのを聞いていて、花奈子は、《そうか、重傷者は赤で目立つようにして、先に運ぶのか》と、緊急搬送に手順があるのを知った。
待つ間に心の支えになったのは、周辺の工場などから支援に駆けつけてくれた従業員らが、ボトルで水を飲ませてくれたり、励ましの言葉をかけてくれたことだった。
そのうちに花奈子にも医療班によって「赤」のタグがつけられると、担架に乗せられて、近くの中学校の校庭に運ばれ、待機していた救急車に乗せられた。酸素マスクをつけられたが、息苦しさは和らがなかった。頭はぼーっとしていたが、家族に会いたいという思いだけは途切れることなく駆けめぐっていた。
ピーポーピーポーの音とともに、救急車が現場から遠ざかるにつれて、家族にもうすぐ会えるという期待感が高まってきて、自分は助かるという安堵感も朧げながら生じてきた。
その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。
