妹が事故に巻き込まれたかもしれないと…職場で泣き崩れた長女
花奈子が生後4カ月の頃、大人のベッドとベビーベッドの間の狭い空間に真っ逆様になって落ちているのに気づかず、気づいた時にはチアノーゼを起こしていて、救急車で運んだ時のことがフラッシュバックした。救急車の中で、「花奈ちゃん、花奈ちゃん」と叫んでいた自分。
やっと警察署に電話がつながったが、応対してくれた女性は、「現場も警察も大混乱で、状況は全く把握できません」としか言ってくれない。これでは現場に行っても、何もわからないだろう。
花奈子の様子がある程度わかるまでは、勤めに出ている夫と長女・聡子に連絡するのを控えようと、ハルコは考えていたが、独りでオロオロしているばかりで、息苦しくなってきたので、とうとう夫と長女に電話をかけて状況を説明し、いつでも連絡が取れるようにしておいてほしいと頼んだ。
特に聡子は、5つ離れた妹の花奈子を、幼い頃から可愛がり、成長してからも強い愛情を注いでいたので、職場で電話を取り、妹が事故に巻き込まれたかもしれないと聞くや、「花奈子が!」と言ったきり泣き崩れた。
聡子が勤めていたのは吹田市内の大学病院だったから、事情を知った同僚たちが手分けして、尼崎市近辺の病院に片っ端から電話をかけて、「三井花奈子」という若い女子学生が緊急入院していないか調べてくれた。しかし、花奈子の消息はつかめなかった。
事故から3時間余り経った12時30分過ぎ、ハルコがこのままではいけない、現場に行こうと思い、出かける準備を始めた時だった。電話が鳴った。
「生きているのですか?」
「三井花奈子さんのお家の方ですか?」
年配の女性の声だった。
「はい、母親です」
「こちらは大隈病院です。花奈子さん、今から入院されます」
おそらく救急車から搬送の連絡が入ったのだろう。ハルコは《やっぱり乗っていたのだ》という思いと同時に、頭の中いっぱいにカーッと熱いものが広がるのを感じた。
「生きているのですか?」
「はい」
「生きているのですね? ありがとうございました。すぐにそちらに向かいます。どうかよろしくお願いします」
ハルコはすぐに、夫と長女の聡子、実家、友達に電話で連絡をしてから、花奈子の入院に必要なものを揃えると、車に積んで出かけた。大隈病院ははじめてなので、道路地図を携行した。
川西市から南へ下り、尼崎市に近づくと大渋滞で、一寸刻みでしか進めない。沿線の大きなドラッグストアの駐車場に車を停め、タクシーを探した。やっと見つけたタクシーの運転手に、何とか抜け道を探して、大隈病院まで急いでほしいと頼んだ。
