ただ、同校でも、残業代の支払いは容易に認められたわけではない。経営側は団体交渉でなかなか残業代の支払いを認めなかったため、組合員が労働基準監督署に申告し、同校は2年連続で、長時間労働や残業代に関する労働基準法違反で是正勧告がなされている。
個人では難しい残業代請求だが、労基署や労働組合を通じて要求すれば、未払い分を支払わせることができるのである。
どこまでが「労働時間」に当たるのか
では、どこまでが「労働時間」に当たると言えるのか。裁判判例の水準で考えてみよう。
準備作業や研修、校内勉強会など、作業をしない場合や参加しない場合にペナルティが科されたり、不参加の理由を聞かれたり、人事評価に関わったりする行為であれば、強制であり、労働時間であると判断される。
また、残業をするようにという明確な指示がなくても、所定の労働時間までには終わらないような作業を命ぜられた場合や、労働者が終業時刻以降も就労していることを上司が知って放置しているような場合も、「黙示」の指示があったとして、労働時間として判断される(以上、日本労働弁護団『働く人のための労働時間マニュアルVer.2』、旬報法律事務所『未払い残業代請求 法律実務マニュアル』などを参照)。
公立学校の教員と異なり、私立学校の教員は労働時間として判断される範囲が非常に広いということがわかるだろう。
登校指導、授業準備、部活動……ほとんどが労働時間に
さらに、より具体的に何が労働時間に当たるのか。関西大学付属校の実例や、NPO法人POSSEが実施した私立学校ホットライン、私学教員ユニオンに寄せられている労働相談から、トラブルになりやすいケースを整理した。
・登校指導
始業時間に先立ち、校門の前などに立って生徒に挨拶する学校は少なくない。シフトが組まれて日ごとに担当が決められ、業務として命じられていたり、拒否できなかったりという事情があれば、労働時間であると主張でき、残業代を請求できる。
・始業時間前、就業時間後の会議
就業時間より前や就業時間後に会議が行われ、残業代が支払われていないケースが見られる。出席する必要がなく、欠席しても何ら問題にならないのであればともかく、そうでなければ明確に労働時間であり、残業代を請求できる。
・保護者対応
生徒が病気で休むという連絡など、保護者からかかってきた電話に出なければならない時間帯も労働時間となり、残業代を請求できる。
・授業準備、教材研究
始業時間前や就業時間後に、授業の準備をしている私学教員は非常に多いだろう。プリントや試験問題の作成など、授業の準備として必要な業務であれば、それも労働時間となり、残業代を請求できる。
同様に、授業の内容を向上させるための教材研究も、原則的には労働時間であるといえる。ただ、任意といえなくもないケースもあり、個別に判断することが必要だろう。
なお、これらの作業を家で持ち帰って行っていると、何時間労働していたのかを証明するハードルが飛躍的に上がってしまう。残業代の観点から言えば、職場に残って授業準備・教材研究をしたほうが請求しやすいので、注意が必要だ。