米カリフォルニア大学サンディエゴ校教授で、日本企業研究を専門とするウリケ・シェーデ氏。シェーデ氏は「日本はダメだ」という悲観論を喝破し、他国にない日本企業独自の「強み」を見出す。それは何なのか。(通訳=近藤奈香)

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 米国企業に比べ変化が遅い日本企業も、この30年間、単に停滞してきたわけではありません。

 2000年代以降、グローバルな最先端技術の領域で事業を展開する機敏で賢い日本企業が出てきました。こうした企業の多くは、「最終製品」ではなく、素材や部品などの「中間財」を製造しています。最終消費者ではなく他の企業に向けて商品やサービスを提供する、いわゆる「BtoBビジネス」です。

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ウリケ・シェーデ氏 Ⓒ文藝春秋

 かつて自動車や電化製品など「メイド・イン・ジャパン」として世界を席巻したお馴染みの製品とは異なり、現在の「中間財」の技術や生産設備は、一般の人々にはあまり知られる機会がありません。

「ジャパン・インサイド」戦略

 私はこの新しいビジネスの強みを、「インテル・インサイド=インテル入ってる」に倣って、「ジャパン・インサイド」と名付けました。「メイド・イン・ジャパン」と違って陰に隠れていても、極めて強力なのです。

 私がこの研究に着手したのは2010年です。この時点で、どのような企業が、どのように利益を上げているのか、改革のために何をしたのかを探ろうと、上場企業の営業利益率のデータを調べたのです。

 リストの上位には、日本人にさえあまり知られていない企業名が並んでいるのに驚きました。キーエンスやファナックなどを除けば、大多数は、上場し、グローバル化している大企業であっても知名度が低かったのです。私はこの点に注目しました。

 こうした企業の共通点は、特定の中間財や部品市場で大きなシェアを占め、「価格決定権」を握っていること。つまり、言い値で取引ができるので、「収益性の高い企業」リストに入っていたわけです。

「ジャパン・インサイド」の戦略は、グローバル・バリューチェーン(企業が製品やサービスを顧客に届けるまでの一連のプロセス)で極めて重要な市場分野に特化し、技術面でのリーダーとなることなのです。

 2010年代後半になると、日立、ソニー、NEC、NTTデータなどの大企業も含めて、再生に向かう日本企業が増えてきました。こうした企業も、製造にとって不可欠な一連の重要な「中間財」「機械」「システム」で技術リーダーシップを発揮する戦略を採っていたのです。昭和時代の「規模」と「売上」を重視する「コングロマリット」(多様な複合企業)型から、「利益率」を重視してより狭い分野に特化する「選択と集中」型へのシフトです。

ソニーグループ株式会社 ©show999/イメージマート

 1995年版のフォーチュン・グローバル500社に、日本企業は149社も入っていましたが、2023年版には41社しか入っていない。これをもって「日本の衰退」が言われているわけですが、「規模」で比較するからこうなるのです。規模の重要性は薄れつつあります。